【令和5年度】DX公募型実証事業

ブロックチェーンを活用した『終活ノート』のデジタル化

■取組の経緯・動機(社会的意義)

 熊本県内での調査(※注)によると、回答者全体の約65%の人が終活の実施を考えているが実際には行えておらず、加えて、終活ノートを作成している人は終活ノートを知っている人(全体の約77%)のうち約3%に留まるなど、終活に対する関心の高まりに対し、具体的な行動が伴っていない状況にありました。
 また、従来の紙の終活ノートは紛失や災害による消失など、受取人に対し情報が伝わらないリスクがある一方、想定の受取人以外に情報が閲覧・編集される可能性もあり、個人での安全な保管が困難であるという課題がありました。
 「寄り添うチカラ」で地方創生に貢献することをミッションとしているアイティフォーは、そこで、「デジタル金庫」のアイデアを元に、WEB3.0等先端技術であるブロックチェーンを組み込んだスマホアプリ「電子終活ノート」を構想し、終活ノートのデジタル化による入力と保管の簡便化と、ブロックチェーン技術の特性である耐改ざん性により、上述の課題を解決することができると考え、実装に向けた実証を行う運びとなりました。

※注
・平成 26 年 3 月 熊本県 企画振興部 企画課  県民の生涯を通した安心の実現を目指して
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/58528.pdf
最終閲覧日 2024年1月22日

・2017年5月 公益社団法人地方経済総合研究所  「終活」に関する意識調査
https://www.reri.or.jp/kanri/wp-content/uploads/2017/05/p_syukatsu_1.pdf
最終閲覧日 2024年1月22日

■先端技術の活用理由と期待される効果

 上記のような特性を活かすことで、電子終活ノートに記録されたデータが改ざんされているか否かを自動的に検証することが可能となります。これにより従来の紙の終活ノートにおける課題であった、記録した情報を外部から改ざんされるリスクを減らすことができます。
 さらには、終活ノートの情報を受け取る側もノートの真正性を検証できることで、記載された内容が記録者の在否に関わらず本人による記録であることを、自身で確認することが可能となります。
 このように本実証にてブロックチェーン技術を活用し、システム上に記録された情報の改ざん検知に関する検証を行うことで、より真正性がもとめられる行政文書への活用可能性の検討や、将来的には、法務省が検討を進めている、自筆証書遺言のデジタル化、いわゆる「デジタル遺言制度」にも活用が出来ると考えました。

■実証実験の具体的内容、成果、実証事業を通じて明らかになった課題

 本事業はデータの耐改ざん性と透明性を特性とするブロックチェーン技術を活用し、データやデジタル技術を駆使して終活ノートに携わるすべての人に変革をもたらすことを目指したプロジェクトです。
 本事業では上記理念のもとに、次の仮説を立て検証をおこないました。

【仮説】
仮説①:ブロックチェーン技術における仮説
 ●遺言(※)などデジタルデータに対する堅牢性が向上する
  ○終活ノートのデータを分散し保存することでデータの改ざんリスクを低減できる。
  ○紛失や災害による消失のリスクを低減することができる。
 ●遺言(※)などデジタルデータに対する真正性が担保できる
  ○記載された内容が記録者本人による記録であることを、検証することが可能になる。
(※)本サービスを利活用して作成された遺言は現時点で法的な効力を有するものではありません。

仮説②:終活ノートのデジタル化における仮説
 ●デジタル化による終活ノート作成が簡略化できる
  ○予め用意されているフォームに対し記録を行う方式を採用することで、終活ノートの作成経験のない方でも「伝
   えたいこと」「遺したいこと」を簡単に記録することができる。
 ●デジタル化による終活ノートの利便性が向上する
  ○いつでも・どこでも登録、編集ができるため、紙の終活ノートと比較して記録する機会を簡単に創出すること
   ができる。
  ○紙での記録が困難な動画や音声による記録に対応することで、手軽に受取人に対しメッセージを伝えることがで
   きる。
  ○受取人を指定できることにより、紙の終活ノートと比較して第三者による情報の閲覧・編集リスクが低減でき
   る。

仮説③:実証実験の取り組みにおける仮説
 ●終活に対する関心度向上
  ○自身の資産や相続、家族へ残したい情報等を客観的に記録することで、「終活」に対する興味・関心を高めても
   らうきっかけになる。

【実証実験の概要】
 スマートフォンアプリ「電子終活ノート」を開発し、九州フィナンシャルグループ様、肥後銀行様など8団体128名の協力を得て、同アプリの利用を通じた検証を実施しました。
 
 検証作業では、「1.インストレーション(アプリのインストールなど)」「2.終活ノートへの記録」「3.意図的な改ざんと復旧」「4.記録者死亡によるノートの継承」の4つのステップ(模擬シナリオ)に沿って実施しました。
 また各ステップ終了時点でアンケートを実施し、アプリ利用者としての評価の他、参加者それぞれの観点(金融機関・自治体・民間企業)からの意見も募り、今後の波及効果についても検証いたしました。更に全工程完了後には全体を総括したアンケートを行い、ブロックチェーンへの理解度と期待や、終活に対する意識の変化についても調査・分析いたしました。

【実験内容】

 2024年1月9日から2024年2月18日までの期間において主にスマホアプリの利用を通じて検証を行う「機能検証」とブロックチェーンの特性を検証する「技術検証」を実施いたしました。「機能検証」においては「記録者」と「受取人」に役割を分け、それぞれの操作内容に応じた作業の成功を確認しております。

≪STEP1インストレーション≫
 ●すべての参加者に対し、ご自身のスマホにアプリをインストール頂きました。
 ●記録者は自身の終活ノート(以下、マイノート)を準備し、共有したい受取人を指定し、招待コードの発行を行
  いました。
 ●受取人は記録者からの招待コードを受領し、認証を行うことで記録者が作成したマイノートを閲覧可能な状態に
  なることを確認しました。

≪STEP2終活ノートへの記録≫
 ●記録者がマイノートに「伝えたいこと(映像・写真)」と「遺したいこと(預貯金情報・クレジットカード情
  報)」を登録し、それぞれの項目に対し、共有タイミング(即時・死亡時)と受取人の設定を行いました。

 ●受取人は記録者がマイノートに情報を記録したことの通知を受けた後、共有されたノートを閲覧し、共有タイミ
  ングが「即時」に設定された情報が閲覧できることを確認しました。
 ●受取人は記録者から共有されたマイノートに対し、改ざん検知を行い、検証の結果、「改ざんが検知されていな
  い」ことを確認しました。

≪STEP3意図的な改ざんと復旧≫
 ●特定の記録者が作成したマイノートに、当社が外部から意図的に不正アクセスし、記録された情報を改ざんしま
  した。
 ●受取人はアプリケーション上で、「改ざんが検知された」ことを確認しました。

≪STEP4記録者死亡によるノートの継承≫
 ●記録者のステータスを死亡に変更することで、その後、記録者のマイノートへのアクセス及び、書込みが出来なく
  なることを確認しました。
 ●受取人は記録者のステータスが死亡となったことの通知を受けた後、共有されたノートを閲覧し、共有タイミン
  グが「死亡時」に設定された情報が閲覧できることを確認しました。
 ●受取人は記録者から共有されたマイノートに対し、改ざん検知を行い、「改ざんが検知されていない」ことを確
  認しました。

【検証結果】

①ブロックチェーン技術における仮説
≪遺言などデジタルデータに対する堅牢性向上と真正性担保≫
 記録した電子終活ノートのデータに対し、ハッシュ関数を用いて「検証情報」を作成し、ブロックチェーン上に記録しました。検証情報はブロックチェーン上に記録されることで、耐改ざん性と透明性を有します。電子終活ノートのデータに対する改ざん検知が可能となったことで、堅牢性の向上と真正性の担保をアプリ上で実現する結果となりました。

 また、検証作業参加者にアンケートを実施し、指定の検証作業の成功率を測りました。
 その中で、「終活ノートをブロックチェーンで検証し、「ノートが改ざんされています」と出ることが確認できましたか?」との設問に対し88.9%の方ができたと回答しました。

 「確認できなかった」と回答した方の理由としては、「パスワードを失念したためログインできなかった」「改ざん検知確認をどの様に実施するのか分からなかった」等が挙げられました。
 以上のように、個人的な事由を除いたほぼ全ての方が、終活ノートの改ざんを検知することができたことからも、本アプリがブロックチェーン技術によって堅牢性が担保されていると言えます。

②終活ノートのデジタル化における仮説
 各ステップを参加者に実施していただき、アンケートを取得しました。

≪デジタル化による終活ノート作成の簡略化≫
 電子終活ノートアプリの操作方法とデータの入力に関して「簡単、まあまあ簡単」と答えた参加者が77.4%と大半を占め、デジタル化をすることで終活ノートの作成が簡略化されたと言えます。
 参加者からは、簡単だと回答した理由について、「データを入力するために必要な項目が決まっており、それに沿って入力すれば良いため」「直感的な操作で画面遷移ができ、カゴテリがある程度まとまっているため」といった意見が多く見られました。
 一方、難しいと答えた方はその理由について、「スマートフォンでの入力自体が難しい」、「選択肢で入力できる項目が少ないため」といった回答が得られました。

≪デジタル化による終活ノートの利便性向上≫
 「スマートフォン上で終活ノートを作成することに利便性を感じる」と答えた方は64.2%という結果となりました。利便性を感じると回答した理由としては、デジタルデータ(動画、写真、音声など)を保存し伝えられるという点、紙に比べてデータの修正が容易な点などが挙げられました。
 しかし、スマートフォンでの入力がし難いという意見も一定数見られました。

 以上の結果から、従来の紙の終活ノートと比較し、電子終活ノートは利便性が向上したと言えます。

③実証実験の取り組みにおける仮説
≪終活に対する関心度向上≫
 「本実証事業を通じて、資産や相続に対する関心が高まったか?」の問いに対し、「高まった」と回答した方は
74.5%と、本アプリを通じて多くの方が終活に対する意識を高めるきっかけとなったと言えます。

【成果総括】

 今回の実証事業では、「終活ノート」という情報の真正性が必要となる題材にブロックチェーンを活用しました。これにより、終活ノートという堅牢性、真正性が求められるサービスに対して、ブロックチェーンの有効性を実証することができたことと、紙の終活ノートでは課題となっていた保管や共有に関する課題も、アプリの機能とブロックチェーンの特性を活用することで解決することが可能となりました。
 また、生前の意思やメッセージ、資産等に関する遺したい情報を電子終活ノートに記録することで、終活に対する意識が高まる結果となりました。
 将来的には、医療従事者や介護者と共有し、適切な医療やケアを受けるための計画の検討や、金融機関による財務状況や資産構成の把握によるコンサルティング等、本アプリを通じて記録者のライフプランをサポートするツールとしての価値が期待できます。

■実証実験によって明らかになった課題

1.技術面の課題
 ●ブロックチェーンは大容量のデータを取り扱うことは非効率なため、ファイルそのものを保存するストレージと
  しての利用は困難であることで活用用途が一定程度制限されること。
 ●ブロックチェーンに1回書き込むごとに手数料が生じるため、書き込むのは夜間に1度ということにしました。電
  子終活ノートはリアルタイム性が求められるサービスではないため本実装としましたが、リアルタイム性が重要
  なサービスはこの点を留意して記録する必要があります。
 ●ユーザーが簡単に電子終活ノートを作成し、更新できる使いやすいインターフェースの設計が必要。

2.サービス提供上の課題
 ●記録者死亡時の手続きをオンライン上で完結するための死亡に関する証明書の提出から、受領までのWEB完結型
  プロセスの検討が必要。
 ●認知症発症時における情報の開示タイミングを用意するために、認知症の段階、要介護度を踏まえて検討するこ
  とが必要。
 ●本人以外による電子終活ノートへの入力(代理入力)に関する取り決めと機能検討が課題です。
 ●デジタル化を行うことで開発費、サービス運用費が発生します。それを踏まえたうえでビジネスや事業としての展
  開が今後の課題です。

■今後の展望

 今回、熊本県の実証事業に参加させていただいたことで、社会課題とブロックチェーンを掛け合わせ、人々にその利便性を分かりやすく訴えることで、ブロックチェーンをインフラとして人々の生活に浸透させることができる、という実感を得ることができました。
 デジタル遺言制度へのいち早い対応を目指し、今後は法務省の動向を追いながら、今回判明した課題にも対処した、新たな機能の研究開発も進めてまいります。

■担当者の声(事業を実施してみての所感)

 今後は得られた技術や知見をもとに、県内企業様や自治体様と対話を重ね、本サービスを更に進化させることで、将来的には社会課題をも解決するプラットフォームの構築を目指してまいります。
 同時に、終活ノートのみならず、真正性を担保する必要がある業務やサービスに向けたアプリケーションの開発を検討し、特に証明書の電子化やデジタル化された行政文書等の改ざん検知などへの応用も検討していきたいと思います。

■実証に参加した企業による対談

実証事業に参加した企業の担当者に同事業の内容や意義についてお話しを伺いました。
詳しくは以下の記事をご覧ください。

■実施主体

■事業説明動画の配信について

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