【令和5年度】DX公募型実証事業

NFT・メタバース を活用した球磨焼酎のブランド力向上

■取り組みの経緯/動機

 熊本県の県産品の一つに球磨焼酎という、500年の歴史を誇る日本有数の米焼酎があります。球磨焼酎は、国税庁の「地理的表示の産地指定」を受けた本格焼酎のブランドであり、WTO協定の附属書であるTRIPS協定により国際的にブランドが保護されています。産地指定が認められているブランドには、イギリスのスコッチやフランスのボルドーといったブランドも含まれており、球磨焼酎はこうしたブランドと同列のお酒になります。その一方で、日本全国における球磨焼酎の認知度は低く、特に焼酎離れが進んでいる20代を中心とした若年層による球磨焼酎の認知度は他の年齢層と比較してもかなり低水準であると言えます。
 そこで、デジタル証明証の側面を持つNFTや、地理的障壁を下げるメタバース等先端技術の活用がこれまで球磨焼酎に接点がなかった層に対しての球磨焼酎の認知向上・魅力発信に有効だと考え、本事業を開始いたしました。

■先端技術の活用理由と期待される効果

 本事業では、NFT(非代替性トークン)とメタバース、2つの先端技術を活用いたしました。NFTとはブロックチェーンを基盤にして作成された代替不可能なデジタルデータを指し、これまで検証が難しかったデジタルデータの真偽性判断や、デジタルデータ保有者の特定等が簡単に実施できるという特性があります。本事業では、NFTを事業への参加券や球磨焼酎への理解を深めることや、認知度向上に向けた発信を行う等の貢献活動に対するデジタル証明書として活用することで、NFT獲得をインセンティブとした貢献活動の活性化や、NFTの保有体験に紐づく帰属意識の醸成、コミュニティ形成が実現できると考えました。
 またメタバースとは、インターネット上の3次元仮想空間を指します。メタバース空間には、参加者の居住地に関わらず誰でも自由にアクセス可能です。本事業ではメタバースを活用することで、球磨焼酎ブランドの認知をより効果的に日本全国へ広げられると考えました。

■実証実験の具体的内容、成果、実証事業を通じて明らかになった課題

 本事業はNFTとメタバースという2つのweb3技術を活用して、これまでアプローチできなかった層への球磨焼酎ブランドの認知拡大を目指したプロジェクトです。

 今回検証を試みた仮説は3つあります。

仮説①:参加者による積極的な貢献活動・情報発信の促進
 NFTの技術特性を活かした保有状況の確認、特典付与が可能な仕組みを実装することで、特典獲得に必須となるNFTの入手要件に球磨焼酎の広報等貢献活動が設定可能です。この仕組みを導入することで、参加者が積極的に貢献活動を行い、参加者主体の効果的な情報発信の増加が期待できると考えました。

仮説②:若年層への球磨焼酎認知拡大
 デジタルデータの保有価値に着目し、NFTに興味関心を持っている人は2,30代が多い傾向にあります。NFTの獲得を目的として、2,30代の積極的な事業参加が期待できると考えました。

仮説③:熊本県外居住者への球磨焼酎認知拡大
 NFTを参加券や貢献活動証明書として配布することで、貢献活動の証明のために熊本県現地に向かうのは遠い、といった物理的距離の制約に縛られない参加者誘引や積極的な事業参加が見込まれ、熊本県外居住者に対して広く球磨焼酎の認知拡大が期待できると考えました。
 また、物理的距離・参加場所に縛られないメタバースを活用して球磨焼酎関連のイベントを行うことで、オンラインにおいても「イベントへ主体的に参加している」という参加感覚を創出、イベントコンテンツに対する県外居住者の興味関心を引き出すことが期待できると考えました。

 これら仮説を踏まえ、我々は球磨焼酎のブランド力向上に焦点を当てた事業を行いました。

【実証実験の内容】
 球磨焼酎を知らない参加者に対して、NFTをきっかけに球磨焼酎を認知してもらい、最終的な球磨焼酎交換に必要なNFTを取得するためにクイズや、熊本現地・メタバース上でのイベントへの参加、SNSでの周知広報を「ミッション」としてクリアしてもらうことを通じ球磨焼酎に対する理解を深めていただきます。
 最終的に球磨焼酎の試飲体験をしていただき、球磨焼酎の味わいと、その源泉となるこだわりを理解することで本事業の参加者が球磨焼酎のファンになっていただけるのではないかと考え、下記の4つのステップで事業を実施しました。

【STEP1】ベースNFT発行
 球磨焼酎やweb3に関心のある参加者に対して、本事業の「参加券」となるベースNFTを発行します。ベースNFTは球磨焼酎の原料であるお米をモチーフに作成し、球磨焼酎の特徴を広報する役割をもっています。ベースNFT発行にあたり、球磨焼酎に関するプレイベントを同時期に開催、参加者にベースNFTを優先的に配布することで本事業や球磨焼酎のブランドを広く発信します。

【STEP2】貢献活動依頼・パーツNFT発行
 球磨焼酎に関する情報発信や球磨焼酎のブランド力向上に貢献する活動(SNSによる発信やイベント参加等)を複数の「ミッション」として設定して、ミッションを達成した参加者にはその活動を証明するパーツNFTを配布します(全4種、ミッション毎に配布)。パーツNFTは球磨焼酎の製造工程である「麹造り」、「もろみ造り」、「蒸留」、「熟成」をモチーフに作成し、パーツNFT取得を通じて参加者に球磨焼酎に対する理解を深めていただきます。

 ミッションの設定・達成確認は「AirLyft」というサービスを活用しました。達成が確認できた参加者へパーツNFTをシステム的に配布することで、人の手を介さずにNFTを発行することが出来ます。

また球磨焼酎の魅力を知ってもらう機会として、貢献活動の1つに12月にメタバースと熊本市内の会場で開催されるメインイベントへの参加も設定しました。

【STEP3】真NFT発行
 ベースNFTと2種類以上のパーツNFTを保有している参加者に対して、球磨焼酎獲得権の特典が付与された「真NFT」を発行します。
 真NFTの絵柄には、今回参画いただいた13の球磨焼酎蔵元の商品ラベルが記載されており、参加者は真NFTに記載されている商品ラベルと同じ商品を受け取ることができます。

【STEP4】真NFT特典利用・記念NFT発行
 真NFT保有者に対して、真NFTに記載されている商品ラベルと同じ球磨焼酎現物を配送します。ベースNFT・パーツMFTの入手を通じて球磨焼酎の理解を深めていただいた上で、参加者に飲酒体験をしていただきます。
 またパーツNFTを3種類以上保有しているより熱量の高い参加者向けに、届いた球磨焼酎を広報する特別ミッションを設定、特別ミッションの達成者には追加で記念NFTを配布します。

本事業を推進した結果、以下の成果が得られました。

成果①:参加者による情報発信・拡散の増加
 NFTに紐づく特典の入手をインセンティブとして、NFT獲得に向けて参加者が主体的に貢献活動を行うことによって、運営事務局単体ではリーチが難しい幅広い層への情報拡散・働きかけに成功、一般ユーザーの発信・紹介がメインイベント申込の決め手となるといった他者の行動を促す効果が見られました。また本実証事業を通じて、NFT保有状況の確認・特典付与が可能な仕組みが機能することが確認されました。

 またDiscordを活用した公式コミュニティにおいても参加者間での自発的な情報発信が行われ、球磨焼酎の魅力発信に寄与する結果となりました。

成果②:2,30代による本事業への積極的な参加
 本事業の参加券をNFTとした結果、NFTへの興味関心が高いと想定していた2,30代の多くの方に事業へ参加いただきました。参加券取得後も本事業へ積極的に参加いただき、最終的に球磨焼酎の獲得権まで到達した2,30代の参加者も多い結果となり、球磨焼酎の認知拡大へ貢献しました。

 また2,30代のイベント申込者は他年代と比較し、web3・メタバースへの技術的関心やNFTの獲得がイベント申込理由である割合が高く、NFTが起点となって球磨焼酎を認知、イベント等球磨焼酎への理解を深める機会への参加を促すことが出来ました。

成果③:熊本県外居住者の本事業参加・イベント誘引
 本事業の参加券や貢献活動証明書、球磨焼酎の獲得権をNFTで配布し、地理的な参加障壁を下げ全国の方が参加しやすい形式で事業推進した結果、事業参加者・球磨焼酎獲得者の多くが熊本県外居住者となりました。NFTの配布によって球磨焼酎自体の認知、焼酎現物の獲得によって実際に球磨焼酎の味を知ってもらう機会を多く提供できました。

 またメタバースの活用によって、県外居住者の参加障壁を下げつつ、オンラインでは訴求が難しい「イベントへ主体的に参加している」という参加感覚を創出。熊本県外居住者や球磨焼酎非認知層のイベント参加を促すことができました。

 12月に実施したメインイベントでは、蔵元の方に球磨焼酎の歴史を解説いただいたほか、現地では実際に参加者が獲得できる球磨焼酎の試飲も実施しました。またweb3領域で活躍されている方をゲストに招き、パネルディスカッションも行いました。

■実証事業を通じて明らかになった課題

 本事業を通じて、NFTやメタバースといったweb3技術におけるUI/UXの課題が明らかになりました。例えば、NFTを取得するためのウォレットを作成する、AirLyftを通じてNFTを取得する、貰ったNFTを確認するといった単純な行動においても、複雑な操作や複数のステップを踏む必要があります。web3特有の操作やステップによってNFTの取得を断念・事業から離脱されてしまった方も多く、実際にベースNFT(参加券)取得者471名の内、球磨焼酎現物獲得まで到達された方は79人となりました。NFT・メタバースを活用したことで全国に広がった参加者の離脱を防ぐためには、オンライン上で参加者同士が交流しつつ、不明点を質問・解決できるコミュニティの存在が重要であると考えております。参加者間の交流の場としてコミュニティがより機能するには、参加者の皆様をより巻き込む仕組みづくりが必要です。本事業の参加者には積極的に球磨焼酎の情報収集・魅力発信をしていただけた方もおり、彼らの主体性を促すことがコミュニティ活性化の鍵だと考えております。

■今後の展望

 前述で挙げた課題の解決に向けて、アンバサダー的な人材を巻き込んだ非中央集権的なコミュニティでの運営を進めていきたいと考えております。アンバサダー人材に対するインセンティブ設計を工夫することで、より参加者主導の活きたコミュニティへの昇華が期待できます。アンバサダー的な人材がコミュニティにいることで一般参加者にとってもコミュニティが身近になり、質問や疑問の投稿がしやすくなる上、回答者の増加により対応スピ―ドや交流の幅が広がります。今後も球磨焼酎の蔵元・ファンの皆様と共に球磨焼酎ブランドを盛り上げられる仕組みが構築できるよう、検討してまいります。

■担当者の声(事業を実施してみての所感)

 まずは、本事業にご参加いただいた皆さまにこの場を借りて御礼申し上げます。
 本事業は当行としてもweb3技術を活用した初の取り組みであったこともあり、本事業を推進していく中で困難な事象も複数ございました。その一方で本事業を通じて、実際にweb3技術を活用することで得られた示唆も数多くあり、今後のweb3関連への取り組みの大きな一歩になったと考えております。
 本事業に関しても多くの参加者から「次年度以降も継続してほしい」等の前向きな言葉を数多くいただいておりますので、次年度以降の取り組み方針なども引き続き検討してまいります。また、〈みずほ〉としてもweb3技術の調査/研究を重ねてまいりたいと考えております。

■実証に参加した企業による対談

実証事業に参加した企業の担当者に同事業の内容や意義についてお話しを伺いました。
詳しくは以下の記事をご覧ください。

■実施主体

■事業説明動画の配信について

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