対談:みずほ銀行 × 林酒造 × 鳥越商店

NTF・メタバースを活用した球磨焼酎のブランド力向上

球磨焼酎をより多くの方に知ってもらうためにNFT を活用

- みずほ銀行が今回の熊本県の実証事業に応募した理由を教えてください。

多治見:今回の事業はweb3 技術を対象にした事業の実証を熊本県が支援するという公募内容を知ったことをきっかけに構想しました。NFT やメタバースなどのweb3 関連技術が生まれてきている中で、弊社もこうした新技術を活かしたビジネスをつくりたいと考えていました。

今回の熊本県の実証事業では、県民の課題解決に資する事業であることが要件に求められています。熊本県の産業の状況を調べてみると、歴史もブランドもある球磨焼酎ですが、若者離れが進んでいることがわかりました。そこで、NFTとメタバースを活用して球磨焼酎業界が抱える課題を解決できないかと考えました。

球磨焼酎組合に募っていただき、林酒造場も含む13の酒蔵に今回の実証実験にご参加いただきました。最終的に球磨焼酎獲得権の特典が付与された真NFTには、これら蔵元の商品ラベルが記載されています。林酒造場には事業内で実施した参加者向けのイベントでも球磨焼酎のご紹介をいただきました。

- 林酒造場の林さんに伺います。今回の事業に参加した理由を教えてください。

林:林酒造場は400年の歴史があり、球磨焼酎の蔵元の中でも最も古い蔵のひとつです。私は杜氏として製造を担っていますが、社員は3人で、基本全てをこの3人で行っています。

若者が球磨焼酎を飲まなくなっているという話がありましたが、アルコール離れは酒造業界全体の課題で、若者だけでなく全人口的に起きています。さらに球磨焼酎は認知度が低いため、新しい広報手法も取り入れて、より多くの人に知って頂くことが急務です。

ちなみに、林酒造場は「良いものを作れば売れる」という考え方のもと、以前は営業は全くしていませんでした。これはひとつの考え方ではありますが、いまの時代はそれだけでは駄目だと思い、今は広報にも力を入れるようにしています。今回の取り組みについても新しい広報手法を模索したいという思いから参加しました。

-鳥越商店の鳥越さんに伺います。鳥越商店には、真NFTまで入手した参加者への焼酎の送付を一括して担っていただきました。球磨焼酎の卸問屋として、球磨焼酎の現状をどのように捉えられていますか?

鳥越:酒造業界は課題が山積みです。若い人がアルコールを飲まなくなっているだけではなく、低アルコールのお酒が人気です。25度の焼酎を扱っている我々にとってはとても厳しい状況です。

繋がりによる拡散効果に期待

-今回の取組に関してはどのように感じられていますか?

鳥越:NFTなど最先端の技術を熟知している人達に球磨焼酎を知って頂けた意義が大きいと感じています。球磨焼酎には500年の歴史がありますが、全国各地で試飲会をすると「くましょうちゅう」という読み方をお伝えするところから始まります。今回は林酒造場からも球磨焼酎の歴史についてご説明をいただきました。市場として更なる広がりが期待されるNFTの技術を既に活用されている方々に、球磨焼酎を届けられた意義を感じています。

林:林酒造場としては広報にも力を入れていきたい一方で、やはりマンパワーの問題があります。NFTは人同士の繋がりを通じて認知度を上げていくことができるので、弊社のように人が足りないところを補完しながら認知度を高めていける手法として期待しています。フォロワー数が多く影響力のあるインフルエンサーだけに頼る旧来の手法ではなく、繋がりを通じて国内外問わず認知が広がっていく、こうした繋がりの可能性を模索したいと考えて参加しています。

多治見:今回の実証事業では、パーツNFTなどの配布にあたってSNSでの広報を参加者に配布要件として依頼しました。参加者が自身のSNSで広報してくれることで、インフルエンサーが届けられない人達に届くこともあります。私もSNSで投稿してみたところ、反応してくれる人がいました。また、熊本で実施したイベントの際に林酒造場さんの焼酎を買って帰ったらとても美味しかったので周りにもその話をしました。球磨焼酎と触れるきっかけを生むことができれば、その人を起点として周りに認知を広げていくことができます。今回はこうしたネットワークの活用の仕方も学びになりました。

参加者の9割が県外から

- 球磨焼酎ブランドは県外にも浸透しているのでしょうか?

林:弊社のお客様は、現時点では圧倒的に地元の方が多いです。国外にもアプローチをしていますが、まず大事なのはやはり国内です。国内のお客様に知っていただくための取り組みを様々に進めながら、有効な広報ツールを模索しています。今回の実証実験もこうした取り組みの一つとして参加しました。

鳥越:蔵によって違いはありますが、球磨焼酎は熊本県内での販売が圧倒的に多いです。居住地を越えて発信ができるのがNFT の魅力だと思います。

問:今回はオンラインでも参加可能なプログラムになっていることに加え、メタバースやDiscord などのオンライン上のプラットフォームを活用して、参加者との相互コミュニケーションに力を入れていました。熊本県外の方にも球磨焼酎を知って頂くきっかけになったと思いますが、実際にどの程度リーチできたのでしょうか?

多治見:今回の実証事業でベースNFT を取得した人も、真NFT まで入手して球磨焼酎を手に入れた人も、約9 割が県外居住者でした。県外の人に球磨焼酎を知ってほしいという目標は達成できたと思います。

林:実は今回のメタバースのイベントに参加された方から注文がありました。オンラインを介した広報効果が実証されたと感じています。

- 課題として感じていることがあれば教えてください。

多治見:ウォレットの利用方法が難解なため、苦戦された方が多かったようです。問い合わせも多くいただきましたし、技術的にどうしてそのようなことが起きるのか、我々が突き止められなかったものもあります。参加のハードルを下げるため、弊社側で技術的な課題を克服するソリューションを新たに開発することを検討しています。今回はアーリーアダプターが参加者の中心でしたが、今後はマジョリティ層にもアプローチしていきたいです。

ツーリズムへの発展を期待

- 今後の展開はどう考えられていますか?

多治見:今回の実証事業ではミッションを達成すると球磨焼酎を貰えるという仕組みにしましたが、蔵元を見学できる権利などをインセンティブとすることもできます。ミッションとインセンティブを設計し直すことで新しい展開に繋げていきたいです。

鳥越:参加者がリアルで集えるオフ会があると良いと思います。実際に人吉・球磨に来ていただけると嬉しいです。たとえば今回取得した真NFTを見せると現地で新たな体験ができるなど、この先の体験まで設計できると良いかと思います。

林:今回は焼酎の認知を上げて販売に繋げることに重点を置いていましたが、観光という形で人流の実証実験やマイクロツーリズムのような取り組みが出来ると面白いですね。

鳥越:観光で現地に来てもらい、お酒が造られる風土を体感してもらい、蔵の方に会って焼酎をその場で飲んでもらう。こうした体験をしてもらえると、球磨焼酎への愛情が一気に深まります。たまたま居酒屋にこのお酒があったから飲むというのとは全く違った関係性をつくることができます。
特にインバウンドの方の場合は、日本までわざわざやってきて、交通アクセスが良いとは言えないこの場所に足を運び、何百年も続く蔵を見て、球磨焼酎のつくられる風土を体験することになります。これはとても稀有な経験です。これから日本のインバウンドも第2や第3の都市に向かっていくと言われていますので、そうした動きを取り込んでいきたいです。

帰国後に産地での体験を周囲に話してもらえれば、輸出にも繋がっていくことが期待できます。もし海外から来られた方が今回の事業で手に入れたNFTを持っていたら、林さんと私は確実に反応するでしょう。このNFTを見せられたら古酒を出そうということにもなるかもしれない(笑)。こうしたことがもし起きれば凄い体験価値になります。きっかけはデジタルでもいいので、最終的には人や風土そして製品の香りとの触れ合いなど、アナログの体験にまで繋げていきたいです。