【令和5年度】DX公募型実証事業

3D防災マップ・ポータルサイトを活用した 分かりやすい防災情報の提供

1.取り組みの経緯、抱えていた課題について

 近年、予想を超えた災害が増加しており、3Dシミュレーション技術によるデータ解析の進展も見られる中、国・県・自治体(以下、情報提供者)の住民向け防災情報インフラが整備されています。しかし、情報提供者・災害種類別ごとに防災情報が重複・分散した情報環境となっており、防災情報を取得する住民側において、「何を見たらいいのかわからない」という声も聞かれます。また、慣れ親しんだ2Dのウェブサイト、ハザードマップは紙と同様に扱える利便性がある一方、防災情報への関心を高めることに限界もあり、防災情報において最も重要な避難行動(行動変容)につながる「臨場感が不足」しています。

 そこで、スクレイピング技術により情報提供者の既存サイトから防災情報を収集、デジタルツイン技術により、災害種別ごとに流域治水の対象となる河川流域の3Dモデル上に、ポータルサイト化することで、臨場感の高い3D表現を実現し、住民へ情報発信を行うこととしました。この取り組みにより、住民の防災情報への関心を高め、発災が予想される気象時の避難行動(行動変容)に繋がることを評価するのが本実証事業の目的です。

2.デジタル技術の活用理由と期待される効果

 本事業において展開する3D防災マップは、主に以下のデジタル技術を活用しています。

1)スクレイピング技術
 インターネット上の複数ウェブサイトに重複・分散している情報を、自動巡回し、一定間隔で情報を修得、適切の内容へ編集、直観的に受け取りやすい表現を生成し、ユーザーへ提供する技術です。様々な取り組みから生まれたインターネット上の情報を効率的に活用するために最適な技術です。今後も、国・県・自治体で、対象エリア、目的などから、分散した防災情報システムが構築されると考えられる現状においては、API接続よりも、現実的な手法と考えます。

2)3Dデジタルツイン技術
 将来的な3D防災マップの一般的な普及を考慮し、独自技術ではなく3D地理空間プラットフォーム(デジタル地球儀)において、世界標準CesiumJS(OSS)を採用し、インターネット配信システムとして3D防災マップを構築しました。利用者のインターネット環境を考慮し、ソフトウェアのインストールが要らないWEBアプリとして提供しました。

3.実証事業の具体的内容、成果、実証事業を通じて明らかになった課題

 本実証事業はスクレイピングとデジタルツインの2つのデジタル技術を活用し、これまで、重複・分散していた防災情報を一元化、2D表現が主流の防災情報サービスを3D表現にすることで、住民サービスとして、これまで以上に、1).防災情報取得の容易さを高め、2).防災情報への関心を向上させ、3).避難行動に繋がる判断へ誘導する、ことを目指し次の3つの仮説を設定しました。

仮説①:防災情報取得の容易さを向上
 防災情報の一元化、3D表現された防災情報(水位計による水位の危険度など)により、情報の取得が、直観的になることによって、防災情報の取得のしやすさが飛躍的に向上すると考えました。情報提供元である国・県・自治体サイトへもアクセスができるようにすることで、さらに、各サイトの活用も向上すると考えました。

仮説②:防災情報への関心の向上
 これまでの防災情報の発信は、情報の重複・分散、また、発災が予想される状況においてのみ危機を知らせる仕様のため、住民の防災情報への関心を継続・向上させることに困難がありました。防災情報の一元化と、直感的な認識が可能な3Dの表現にすることで、これまで気づかない新たな視点を住民に感じていただき、防災情報への関心を向上させることが可能と考えました。また、発災が予想される状況を疑似体験できれば、発災以前の防災教育として、防災情報への関心を大きく向上させると考えました。

仮説③:避難行動に繋がる判断へ誘導
 3D防災マップは、仮説①により、3D防災マップの利用を促し、仮説②によって、防災情報への関心を高め、最終的に、避難行動に繋がる判断に誘導するため、自治体が発令する避難命令を効果的に提供します。これにより、避難命令が発令されるまでの経緯を認識し、納得感がある冷静な避難行動に繋げることができると考えました。

【実証事業の内容】

①3D防災マップの構築
 3D防災マップは、菊池川流域に限定した3D地理空間に防災情報を配置したインターネット配信システムであり、多くの住民からのアクセスに耐える基盤構築を行いました。本実証事業では、期間と予算の関係から、パソコン利用、および、一般的なWEB会議が可能なインターネット回線を標準的な利用環境とし、スマホ利用は、パソコン用のWEBアプリを、スマホ用に必要最低限の変更を加えた仕様としました。
 令和5年9月4日に3D防災マップのサービスを開始し、先述の3つの仮説を検証するため、WEBアクセス分析、アンケートおよび玉名市主催のワークショップによる利用状況の収集・分析を行いました。

<3D防災マップの基本仕様>
(1)菊池川流域を自然な太陽の動きに合わせて3D表現で再現
菊池川流域の標高を再現し、時間と連動した太陽の動きに合わせた表現としました。そこに、数値・文字データなどを直観的に捉えられる表現にし、水位計、危険レベル、避難所、浸水域などを配置しました。

(2)カーナビライクな操作感で災害ごとに最適なカメラ位置と必要な情報表示
 洪水、土砂、津波高潮の3つの災害に最適なカメラ位置、必要な情報表示に自動切換えを実現しました。住民の現在位置と心配な災害に合わせて直観的な情報取得をサポートします。

(3)防災情報を自由に選択・表示 
 3D防災マップは、国道交通省PLATEAU3D都市モデル、浸水区域、水位計、避難所など、現在位置の周辺の様々な防災情報を自由に選択し表示できます。

(4)発災時に提供される情報を疑似体験できる「体験モード(音声ガイド付)」
 発災が予想される気象時の、発災までの経緯をストーリー仕立てで疑似的に再現し、水位計と危険レベルの表示、また、避難所開設、自治体の避難命令に関する情報提供を学習することができます。

(5)情報提供者(国・県・自治体)サイトおよび民間サービスとの情報連携
 3D地図上に配置された情報から、情報元である国・県・自治体サイトへのアクセスをサポートします。また、避難時には、Googleマップを呼び出すことができます。

 自治体が用意した防災情報、防災に関連した住民サービスへのアクセスをサポートします。菊池川流域沿いの自治体の防災情報を確認できるため、広域災害時に有効と考えます。

(6)3Dから2Dへの切り替え機能
 3Dでは表現しづらい、あるいは、2Dの方が確認し易い場合、3D表示と2D表示を切り替えることができます。

(7)地図の変更
 地図は、国土地理院提供の衛星写真を標準で表示させました。OpenStreetMap、国土地理院の各地図を用途に合わせて自由に選択できます。

 例えば、国土地理院地図(色別標高)は、市街地の標高がわかるため、水害時にどの方向が安全かを見極めるのに有効です。

(8)利用者の現在位置
 住民の現在位置を示す機能が搭載されています。自分の位置(熊本のキャラクターであるくまモン @熊本県)から、避難を考えることができます。

(9)パソコンとスマホ画面
 パソコン・スマホ用のウェブアプリとして、カーナビライクな操作感に統一しました。

②利用状況の調査結果
(1)GoogleアナリティクスによるWEBアクセス分析
 3D防災マップへのアクセスは、令和5年9月から令和6年2月まで、総数1374件のアクセスがありました(ひとりが複数回アクセスした場合は、1回とカウント)。新規アクセスは、平均100~200ユーザー/月のアクセスがあり、降雨への心配、防災準備としてのアクセスが一定数あったと考えられます。また、リピート数も一定数あり、定常的にアクセスしているユーザーも存在していることがわかりました。アクセスは、玉名市発行の広報などに啓示されたQRコード、玉名市ホームページからが最も多い結果でした。
 このことから、総合的に防災情報サイトとしての一定の機能を果たすことはできたと考えます。

(2)アンケートおよび玉名市主催のワークショップによる利用状況の収集・分析
 1374人のアクセスにおいて、325人のアンケートを得ることができました。3つの仮説に対して以下の結果を得ることができました。

成果①:防災情報取得の容易さ向上
 すべての年齢層を通して90%が、3D防災マップを利用すると回答しました。その理由は、これまで何から情報得ていいかが不明であったが、災害別に防災情報を直観的に捉えることができたと回答しました。しかし、70才以上は、肯定的な意見(利用する)ではあるものの、パソコン、スマホを操作することへの不安から他の年齢層よりも低い結果となりました。
 利用するとした回答(90%)の理由(複数回答)では、防災情報について、これまでより、「わかりやすかった」、情報が理解できた結果、「さらに活用してみたい」となりました。

成果②:防災情報への関心の向上
 防災情報(水位計、危険レベル、避難所など)が、直観的に取得しやすく、3D表現による新たな視点が生まれ臨場感を感じたとして、防災情報への関心の向上につながったと86%が回答しました。

その主な理由は、次の通りです。
理由①:見る高さ/角度が変えられ地形を立体的に捉えること
    ができる
理由②:災害種類別に簡単に情報を切り替えることができる
理由③:3D表現に、水位計・危険区域などが表示され直観的
    に情報を確認できる
理由④:3D表現に、国・県・自治体の情報が一元化(ポー
    タル化)されこと

同時に、次のような懸念点も示されました。
懸念点①:3Dデータの表示に時間がかかる
懸念点②:3Dのカメラ位置の変更など、スマホのような小
     さい画面では操作しにくい
懸念点③:2D地図による確認に慣れてしまっている
懸念点④:狭い範囲にズームした場合、2D表現が認識しやす
     い

成果③:避難行動に繋がる判断へ誘導
 3Dの有効性・有用性について、2つの場面を想定した質問をしました(場面①:災害に備える場面、場面②:災害が起こることが想定される場面)。その結果、3Dが有効とする回答が、場面①:災害に備える場面で80%、場面②:災害が起こることが想定される場面で88%でした。場面②:災害が起こることが想定される場面(88%)が、場面①:災害に備える場面(80%)よりも、3D表現が有効であり有用となったのは、災害が起きる可能性がある緊迫した状況では、直観的でわかりやすい3D表現の有効性が高く有用とされました。

 次に、3D表現の有効性・有用性から、明らかに行動変容(避難行動)につながるかという質問に対して、94%は、行動変容につながるとする回答でした。その中の35%(50才以上が多くのを締める)は、災害が発生する緊迫した状況で実際に操作できるかという点に不安を覚えられており、行動変容(避難行動)がないとされた6%の方も、強くパソコン・スマホ(インターネット)からの情報入手に困難を示される傾向が高い方でした。
 また、有用性を向上させるため、発災後の情報の提供の必要性が意見として寄せられました。

 最後に、体験モードの必要性に関する質問では、92%が必要とするとの回答でした。災害が起きる可能性がある際に、提供される防災情報を事前に学ぶ(防災教育)ことができるため、3D防災マップが、より行動変容(避難行動)に繋がる仕組みとなるために必要とされました。

5.実証事業を通じて明らかになった課題

 本事業を通じて、重複・分散した防災情報をポータル化し、臨場感がある3D上に表現することは、これまで以上に、防災情報取得のしやすさの促し、防災情報への関心を高め、発災時の避難行動につながることが確認できました。同時に、次の課題が明確になりました。
1)3D防災マップの操作性などに関するユーザビリティの向上(特にスマホ対応)
2)防災行動における位置付けを理解するための防災教育の必要性(体験モードの利用)
3)ポータルサイトとして発災後の情報共有機能の追加

6.今後の展望

 国内において、災害リスクのわかりやすい情報の発信方法として3D化の取組が進められているところであり、その重要性は今後ますます高まっていくことが想定される。
 今回の取組みを契機として県内において3D都市モデルの構築と災害リスクの3D化の取組みが広がることが期待される。また、その発展として、県内一級河川の対応、災害発生時における道路復旧情報等のリアルタイムとの連携、AR/VRによる浸水シミュレーション、地域住民への防災教育の充実等による更なる防災意識の啓発に繋げていくことが期待される。

7.コンソーシアムでの横展開の可能性

①デジタルツイン技術の様々な分野における積極的活用
②オンライン地図(GIS)サービスを活かした情報共有の展開

8. 事業者からの総括コメント

 3D表現(デジタル地球儀)の臨場感の上に、国・県・自治体の防災情報がポータル化される取り組みは、「直観的に確認でき、避難行動につながりやすい」という評価を得ることができました。また、「体験モード」は、防災教育の面において有効であることを確認することができました。今回の実証は、約6ケ月の住民サービス提供でした。3D防災マップが災害において活用される社会インフラとして定着するために、継続的なサービス提供と住民の意見を反映させたシステム改善(先述の課題解決)の取り組みが重要と考えます。

■実施主体

■事業説明動画の配信について

 令和5年度DX公募型実証事業では取組の内容を動画にて配信しております。
 コンソーシアム会員交流サイト「情報プラットフォーム」のアーカイブにて、ぜひご覧ください。
 「情報プラットフォーム」の利用には、コンソーシアム会員の登録(無料)が必要になります。