【令和5年度】DX公募型実証事業
ドローンや衛星データを活用したサツマイモの 高品質化・高収量化・管理省力化
1. 事業概要
農業のDX化は、以前から「スマート農業」「農業IT」という表現で存在していますが、農業生産者が利用する技術成果においては、例えば、現状の圃場の状態を比較できる情報が提示され、結局は農業生産者の判断にゆだねられるものが多いです。また、圃場に機材を固定設置し、これから情報収集を進めるにも、機材への配慮が必要、といった声を聞きます。
今回の事業においては、農業生産者が必要とする「情報のみ」を必要なタイミングで提供するポリシーを主眼に、農業生産者が現場で大事に積み重ねてきた過去の管理情報をもとに、農業生産現場に機材導入や判断を行うような負荷がかからない、導入しやすいサービスを目指して進めてきました。
2.目的
さつまいも栽培の収量安定・作業効率化を実現するデジタル技術の活用
【参加企業】
株式会社アグリライト研究所(「植物課題解決型」研究機関)
株式会社なかせ農園(農業生産法人)
3. 取組の経緯、抱えていた課題について
これまでの農業では、人手による作業や熟練者でなければできない作業が多く、人手不足が課題となっています。また、サツマイモ栽培では年1作で、土も40年間交換しないなど、革新を起こしにくい現状があります。創業100年の「なかせ農園」でも、栽培にあたり、定植数では作業者の技量によりばらつきがあること、病害・虫害対策や収穫日設定では人手や経験に頼っている現状があり、課題と感じていました。解決に必要な機材や圃場への投資は大きな出費となるため、これまでに積み重ねてきた過去の管理情報を活用し現状の設備のまま解決できないかと考えていました。
そこで、株式会社アグリライト研究所が保有する「植物(農業現場など)を対象としたドローン・衛星画像データの解析技術」や「圃場管理情報の解析技術」を活用し、「定植数の把握」、「病害・虫害の発生予測」、「収穫適期の把握」の3つの課題に対して、新たな圃場把握手法の開発に取り組むこととなりました。
課題① 定植数の把握(収穫量の予測)
①-1.抱えている課題について
なかせ農園では、サツマイモの販売戦略上で重要な収穫量を以下のような算出方法にて予測していました。
〇収穫量(kg/圃場)=株当りの収穫量(kg/株)×圃場当たりの株数(株/圃場)
株当りの収量は収穫期間近に実施する複数回の試し掘りによる調査、圃場当たりの株数は苗移植時の栽植密度設計(畝間、株間)と作付面積の積から、あるいは圃場当たり移植苗コンテナ数(コンテナ当たりの苗数を一定値と仮定)により把握していました。しかし、これまでの圃場当たりの株数の把握方法で算出した収穫量の予測値と実際の収穫量とでは最大で2割ほどのずれが生じることもあり、収穫量を予測する上で、正確な定植数を効率的に把握する手法が無いことが課題となっていました。
そこで、ドローン飛行により圃場撮影を行い、画像解析を行うことで、正確な定植数を把握できるのではないかと考え、次の内容に取り組みました。
①-2.内容
ドローンによる圃場の空撮画像を用いて、移植後の生育株数の推定を行い収穫量予測に重要な活着株数を推定する技術について検討しました。具体的な手順として、ドローンにより圃場を空撮し複数枚の画像を取得し、写真測量技術を用いて圃場の三次元モデルを作成しDEM(標高モデル)画像化したのち、活着株を畝上の頂点として抽出し計測しました。
苗を移植した後の10日から70日まで30日ごとに撮影した3機会の画像から計測した圃場当たりの株頂点の数と、これまでの植え付け株数の把握方法との関係は下図のようになり、高精度な株数推定が可能であることが実証されました。
①-3.効果
手法を開発したことで、ドローン空撮画像があれば、植え付け株数を高精度に把握することが可能となりました。それにより、収穫量の予測精度が向上できます。また、作業者へ指示していた植え付け間隔と実態を比べ、作業者への指示の見直しを行うことで、植え付け間隔を最適化することが期待できます。
【収穫予測精度】
想定:取組前 2割の誤差 ⇒ 取組後 1割の誤差
①-4.活用したデジタル技術
・マルチスペクトルカメラ搭載ドローン(DJI社M4 Multispectral)
・写真測量データ処理ソフト(Agisoft社Metashape)
・地理理情報システムQGISのプラグインTree Density Calculator
課題② 病害・虫害発生の予測
②-1.抱えている課題について
虫害の発生は、日々の見回りによる確認を実施しているが、週3時間を要しており負担となっています。また、発見対処遅れにより出荷ロスが1割起こっていることから、早期の虫害対策が課題となっています。
そこで、農作物への病虫害発生経験は勘所として気象状況と結びつける表現が多いことから、公機関の提示する過去の病虫害発生情報とそのシーズンの気象情報を解析することで、気象条件から病虫害発生アラートが提示できる予測情報が構築できるのではないかと考えました。
①-2.内容
サツマイモ栽培で懸念される病害虫リスクと気象条件との関連性を解析し、圃場毎の発生リスクを予測する技術について検討を行いました。具体的な手順として、ヨトウムシ成虫のトラップ誘殺数データとトラップ設置個所付近の気象データとの関係性解析から、気象条件によるヨトウムシ誘殺数推定モデルを構築し、農園の各圃場の気象データを適用することでその発生リスクを評価し、実際の防除記録や発生状況との関連から有効性を検証しました。
平年値と比較したヨトウムシ成虫の誘殺数は、特に発生の懸念される6月、7月、8月についてモデル化しました。このモデルに令和4年の農園の各圃場のメッシュ気象値を適用し、リスクの低い場合を青、高い場合を赤とするよう半旬(5日)ごとの推移を次の表にまとめ、防除記録や食害確認状況と比較しました。
検証の結果、圃場の気象データからの害虫発生予察が可能となることが示唆されました。
②-3.効果
今までは、病害虫の早期発見のために週3時間の圃場見回りや食害発見による緊急防除は多大な労力を要していました、本実証結果によるヨトウムシの成虫の発生リスク評価により、1か月先に起こる幼虫の葉身食害に対する見回りの重点化や定期防除の繰り上げなどの予防行動に活用できます。それにより、食害による出荷ロスの向上が見込めます。(10%⇒7%)
②-4.活用したデジタル技術
機械学習(AI)を用いたデータ解析
課題③ 収穫適期の把握
③-1.抱えている課題について
降霜前に収穫は終えたいが、実の肥大化を狙いできるだけ単価の高い規格数量を増やしたいため、勘所による収穫日の設定を行っており、収穫適期の予測精度の向上が課題となっています。
そこで、過去の衛星データから分かる植物の活性度と気象情報の推移、生産者もつ圃場管理記録を掛け合わせることで計算式を構築すれば、予測したいシーズンの衛星データによる圃場の状態と気象情報をインプットすることで、適切な収穫時期が予測できるではないかと考えました。
③-2.内容
収穫時期による高品質なサツマイモの収穫量の推移を予測し、収穫適期を把握する技術について検討を行いました。
具体的な手順として、各圃場の収量データを教師データとし、各圃場の衛星データと気象データとの関係性解析から、収穫時期による高品質なサツマイモの収穫量を予測するモデルを構築し、収穫適期予測モデルとしての有効性について検証を行いました。
検証の結果、収穫時期による株当り高単価規格収量予測モデルは、高精度な収量推定が可能であることが確認されました。
このモデルにより予測された圃場ごとの試し掘り時期による株当り収量の変化は実測値の変化と同等の推移を示し、収穫適期予測モデルとしての運用も可能です。
収穫適期推定モデルに用いるメッシュ気象値は約1か月先までの気象予測値も提供しており、試し掘り前の衛星データを取得してから1か月先までの株当り収量変化を予測し、収穫適期の判断に利用できます。
③-3.効果
最適な収穫適期を予測することで、高品質なサツマイモの収穫量の増加が見込めます。
従来の収穫量・収入予測より3%アップ(目標値)
また、本実証における重要課題である圃場収穫量については、本モデルによる試し掘り収穫量予測値と課題1で推定した活着株数の積から算出可能となります。2023年に活着株数推定適期にドローンフライトが実施できた圃場についての検証結果は平均誤差11%となり、デジタル技術活用による課題解決が可能であることが実証されました。
③-4.活用したデジタル技術
・機械学習(AI)を用いたデータ解析
圃場の栽培データと気象データ・衛星画像データといったオープンデータを用いた機械学習による複合解析
・無料で公開されている(オープンデータ)衛星画像データの活用
・マルチスペクトルドローン画像の活用
撮影画像から植物の活性状況が判別可能
4.今後の展望
本事業により、予測式構築に向けた術を得ることができたため、植物を対象とした技術適用が可能となります。他の作目適用や、植物に着目した災害予測など、異業種を含む植物判定機構をサービス化したい事業者のエンジン部分構築を担うことで、新たな産業展開も期待できます。
5.コンソーシアムでの横展開の可能性
①ドローンや衛星画像の様々な分野における積極的活用
②データ解析技術の展開
6.今後の展望について:事業者からのコメント
なかせ農園では、農作業受託事業を進めていることもあり、同社事業として技術適用の普及を行い、地域同作物の底上げ(病害・虫害減少、収穫量アップ)を進めます。
アグリライト研究所では、農作物や植物を対象とした、目的に向けた診断手法の開発が可能である立ち位置から、他の作目への適用や、植物に着目した災害予測など、異業種を含む植物判定機構をサービス化したい事業者のエンジン部分の構築を担うことで、新たな産業展開も期待しています。
■実施主体
■事業説明動画の配信について
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