【令和5年度】DX公募型実証事業

観光客の購買データ・行動データを活用した物産振興

1.事業概要

 観光客や消費者の購買データ、行動データを幅広く収集し、商品開発や販売促進など、観光・物産振興の分野におけるデータ活用の有効性を検証し、データ活用のモデルケースを創出します。
主な取組み内容は以下のとおりです。
(1)専用LINEアプリやWi-Fiセンサー等を用いて観光客や県民の購買データ、行動データを幅広く収集する仕組みを
   構築する。
(2)取得したデータを分析し、ワークショップを実施。商品開発やイベント実施におけるデータ活用のモデルケー
   スを検討・創出する。

2.目的

 観光・物産振興につながる、「情報収集・分析」を実現するデジタル技術の活用

【参加企業】
 東芝データ株式会社(情報サービス企業)
 株式会社MARUKU(IT企業)
 西日本電信電話株式会社(情報・通信企業)
 株式会社くまもとDMC(観光コンサルタント企業)

3.取組の経緯、抱えていた課題(本事業の実施に至った課題)

 観光庁「観光分野におけるデジタル実装方針」では、観光分野のデジタル実装を進め、消費拡大、再来訪促進を図るとともに、これを支える人材を育成し、稼ぐ力を創出していくことが示されており、特にデジタル実装と活用のカギとなる「データの利活用」を積極的に進める必要があるとされています。
 県内においても、観光・物産振興の分野におけるデジタル化は少しずつ進みつつありますが、データの利活用については、大きく進んでいるとはいいがたい状況です。その要因としては、有用なデータの取得ができていないことや、データ活用の方法がわからないといったことが考えられるため、「データの利活用」を促進するモデルケースを創出し、データ利活用の有用性を示すことが必要です。
 このため、本実証事業では、現在取得できていない購買及び行動データを手軽に取得する手段を確立し、得られたデータを分析・活用することで、観光・物産振興分野の新たな施策展開に繋がるデータ活用のモデルケース創出の実証に取組みます。
 また、データの取得により、施策の効果検証(EBPM)を行えるようになることで、観光・物産振興の分野における持続可能な施策の展開が実現し、観光・物産振興を実現することができます。

4.内容

観光客の購買データ・行動データの取得及びデータを活用した観光・物産振興の分野におけるデータ活用モデルケースの検討・創出
(1)データの取得
 ①購買データの取得
  取得データ:レシートデータ、くまモンのIC CARDの決済データ
  対象:実証モニター参加者(県内への観光客、熊本在住者)
  取得方法:専用LINEアプリ、レシートスキャンアプリ、スマートレシート

 ②行動データの取得
  取得データ:スマートフォン等のSSID情報、GPS情報
  対象:4拠点
  (銀座熊本館、くまモンスクエア、お菓子の香梅熊本駅店、熊本空港)
  取得方法:Wi-Fiセンサー、通信事業者の保有するGPS情報の購入

 ③属性等に関するデータの取得
  取得データ:購買に関するアンケートデータ(年齢・性別など含む)
  対象:実証モニター参加者(303人 アンケート有効回答数:212人)
  取得方法:専用LINEアプリを活用した取得

【活用したデジタル技術】
(Ⅰ)専用LINEアプリ(LINE拡張プログラム)
 ・特定の対象との双方向での情報のやり取りが可能
 ・データ提供モニターの募集と、アンケート、おすすめ記事コンテンツ、レシートスキャンアプリとの連携、問合せ
  に対応する手段として活用

モニター参加者からは、206名分のアンケート調査データを取得することができた

記事コンテンツ配信への、LINEから流入したPV数及び実際に記事コンテンツを見て、実際に来訪し購入(飲食)したレシートデータとの関連づけも可能

(Ⅱ)Wi-Fiセンサー
 ・観光客、施設訪問者が所持しているスマートフォンが過去に接続したSSIDを自動取得し、独自SSIDデータベース
  により推定属性を記録可能
  
 A)日別・時間別のカウント数
 (例:11/10くまモンスクエアに856人)
 B)期間別・訪日外国人分析
 (例:データ取得期間中、くまモンスクエアには台湾からの訪問客が61%を占めている)
 C)来訪者の都道府県別流入比率カウンターデータ
 (例:データ取得期間中、お菓子の香梅熊本駅店には、福岡からの訪問客が27.8%を占めている)
 D)鉄道会社のWi-Fi接続履歴から、来訪者の都道府県別流入経路を推論
 (例:データ取得期間中、お菓子の香梅熊本駅店への訪問客は、JR九州を除く鉄道会社比率ではJR東日本が全体の
    2.2%と多く、東京メトロも一定数いる。JR西日本、JR東海は低く、関東圏からの観光客が多いと推測され
    る)

(Ⅲ)GPS情報
 ・通信事業者が日々取得・蓄積しているアプリ利用者のGPS位置情報及び属性データを活用し、対象範囲の来街者
  統計情報を推定できる
 ・Wi-Fiセンサーでは、年齢や性別などの個人情報が取得できないため、(Ⅱ)の該当4拠点付近の、0.5Km範囲の
  来街者統計情報を取得し、データ分析のための補完データとして活用
 ・Wi-Fiセンサーと併せて活用することで、メインデータとして活用するよりも、コストを低く抑えられる

(Ⅳ)レシートスキャンアプリ
 ・購買情報を、レシートをスマートフォンのカメラで撮影するだけで収集することができる
 ・AI-OCR技術により、レシート情報を自動でデータ化できる
 ・データ提供モニターから、熊本県内で購入・飲食した商品情報のデータ取得ツールとして活用

【デジタル技術の活用による効果】
(Ⅰ)データ取得の簡便化・低コスト化の実現

A)Wi-Fiセンサーの活用
・電源及びLAN環境(無線LANでも可)があれば、手のひらサイズのセンサーの設置のみで行動データの取得が可能
 ※カメラで動態を記録し、人流データを取得する場合との比較
(コスト比較)
 従来:
  ・約16万円/月+設置工事代(5台設置)
  ⇒デジタル技術の活用後:約3万円 /月(1台で可)

(手間の比較)
 従来:
  ・店舗での据付工事が必要であり、見た目の問題もある
  ・肖像権の問題で、来客者に告知が必要

 デジタル技術の活用後:
  ・小型センサー設置のみで可能
  ・パーソナルデータは取得しないので告知は不要

B)レシートスキャンアプリの活用
・データ提供モニターが、日々の購入物に関するレシートをスキャンし、専用LINEアプリから送信するだけで購買
 データを収集可能
・レシート情報を自動でデータ化できるため、集計作業の負担軽減や人件費の削減が可能
 ※紙のレシートを収集して、購買データを取得する場合との比較
(コスト比較)1か月のイベントで10,000枚の場合
 従来:
 ・入力作業 約100万円 + 事務局費用 約200万円
 ⇒デジタル技術の活用後:約150万円(システム利用料)

(手間の比較)
 従来:
 ・台紙に貼る、個人情報記入、送付、集計作業などの手順が必要であり、データ提供側及びデータ取得側双方で
  作業が煩雑

デジタル技術の活用後:レシートスキャンアプリのみで可能

(Ⅱ)データ提供モニターとの接点構築による、より良いデータ取得の実現
 ・データ取得に係るモニターの募集に際し、QRコードを読み取るだけで手軽に参加できることから、モニター参加
  への障壁の低減が可能
 ・アンケートの追加や、定期的なインセンティブの付与が容易であり、精度の高いデータ取得に向けた展開が可能
 ・商品情報等のコンテンツを配信することにより、閲覧情報による購買動向の変化を調査できるなど、潜在的な購買
  動向に関するデータの取得が実現可能
 ・レシートスキャンアプリとの連携により、属性に紐づいた購買データの取得が可能

(2)取得データの分析
 ⇒取得したデータを基に、データアナリスト及び分析ツールを用いてデータ分析を実施。分析の結果、ユーザーを
  可視化できました。
【データ分析の内容】
 ・くまモンのIC CARDの決済情報とレシートスキャンによる購買記録からユーザーを特定
 ・スマートフォンの位置情報を利用した来街者データとWi-Fiセンサーで取得した人流データ(カウンター数)の時系
  列分析により、混雑度を確認
 ・Wi-Fiセンサー設置場所の訪日外国人の訪問国割合を分析
 ・Wi-Fiセンサー設置場所付近のイベント開催状況等を施設Webサイトで確認
 ・アンケートにより収集した属性やお土産の購入ポイントを行動データと紐づけし、より具体的なユーザー像の可視
  化を図った

(3)データ利活用の検証
 ⇒データ分析により可視化したユーザー像に対する、観光促進や購買促進に関する施策の検討をワークショップ形
  式にて行い、観光・物産振興分野における、データやデジタル技術を使った施策の創出が可能であるのかを検証
  しました。

【実施内容】
(分析データを基にターゲットを可視化)
 ・ 熊本へ来る観光客の属性・意識・行動の特徴を可視化
  ⇒どのような人が熊本に来訪しており、どのような行動をとっているのかを分析データの傾向を基に読み解く
 ・ 可視化された観光客のユーザーをさらに具体化
  ⇒年齢・性別までしか分からなかったユーザーを、購買履歴や行動履歴をもとにさらに具体化し、アイディア検討
   のユーザー像として、ペルソナ化することで、アイディア検討が行いやすくなる
 ・ 具体化したユーザー像の観光・購買行動を可視化
  ⇒行動履歴や推定した志向を基に、観光・購買行動を描き、考えうる観光・購買行動の中で生じる課題を検討する

(施策の検討)
 ・観光物産振興に繋がるアイディア創出
  ⇒データを基に設定した、ペルソナの観光・購買行動の中で、その満足度を良くするためのアイディアを検討する
 ・観光物産振興に繋がるサービスの具体化
  ⇒ペルソナの観光・購買行動を最大化させるための具体的なサービス施策を検討したアイディアを用いて組み立て
   る

(ワークショップの感想)
 ・データを基に可視化したユーザー像があることで、サービス創出がしやすかった。
 ・ワークショップを通して、データを読み解くことで、熊本の観光課題を知ることができた
 ・もっと広範な事業者を交えてデータに基づき検討ができると、より現実的に実現しそうなアイディアが生まれそ
  う。
 ・取得したデータを事業者間で共有できると、よりよいと思いました。
 ・データを活用することにより、こんな未来を描くことが出来るという具体的なデータ活用について理解できまし
  た。

5.効果

本実証による具体的な効果は以下の3点
(1)従来、取得できていない購買・行動データの手軽な取得を実現
 ⇒・購買データ及び行動データについて、Wi-Fiセンサーや専用LINEアプリを活用することで、11月9日~2月
   29日の比較的短い期間で、以下のデータを取得できました。

・特に、今回取得したWi-Fiセンサーによる行動データは、行動データの取得方法として一般的に主流である、通信事業者が提供するデータと比較して、低コストでデータの取得が可能なことや、データを取得したい場所に、手のひらサイズのセンサーを設置するだけでデータの取得が可能といった、取得の手間が少ないため、手軽なデータ取得を実現することができました。

(2)複数データによる付加価値の創出を実現
 ⇒・時系列に整理されたWi-Fiセンサーデータや、GPSデータなどの行動データと、属性に紐づいたアンケートデータやレシートスキャンデータ、くまモンのICカード決済データ等の購買データを関連づけることで、属性別の購買傾向や購買前後の行動を可視化することが可能となり、物産事業者はデータを基にした、販促活動や人員配置計画が可能になるなど、複数データの組み合わせによる付加価値を創出できました。
 ⇒(例)「東横インとドーミーインの宿泊客は、くまモンスクエアによく行き、くまモンスクエアボールペンを購入する人が多い」という傾向が分かることで、効率的な販促活動を展開することが可能となる
 ・さらに取得データ量を増やしていくと、人流の増減と連動した購買行動の変化を可視化することが可能となり、イベント等の開催に合わせた、買い回り需要を考慮した販促活動が可能となります。

(3)データ活用モデルケースの創出を実現
 ⇒・取得した購買・行動データや、その他のデータを組み合わせることで、ユーザーごとの行動や観光における課題を導出することができ、観光・物産振興分野での施策の具体化が実現できました。
 ・今回は統計的なデータが中心でしたが、属性と行動が紐づくような、パーソナルデータを活用すれば、より個人最適なモデルケースの創出が可能となります。

(今回創出したモデルケースの一例)
・観光地に関するSNSへの投稿データと、行動データ及び属性データを組み合わせることで、属性別の立ち寄り頻度が高いおすすめの観光地を選定する「寄り道ルート提案サービス」を創出。

6.今後の展望

 デジタル技術を活用した今回の実証では、データ取得の簡便化やデータ取得モニターとの接点構築による、より良いデータ取得を実現することができました。
 従来は、行動データや購買データを取得しようとすると、通信事業者の所有している行動データの購入や、大掛かりな購買追跡調査などを行う必要があり、コストや手間の観点から、データ利活用に取り組むことが難しく、データ活用の重要性は理解していても、取り組みづらいといった現状がありました。
 実際に活用することができる、行動データや購買データを手軽に取得可能であることが実証でき、様々な規模の事業者であっても、データに基づくモデルケース創出のような、データ利活用を実現することが可能になります。
 デジタル技術の活用による、データ活用の手法を広く展開することで、観光・物産振興分野を始め、あらゆる分野でのデータ活用を実現することが可能であると考えています。
 今後の課題としては、データ取得量の不足が挙げられます。今回の実証では、Wi-Fiセンサーの設置台数が少なく 熊本空港など動線的に複数の経路のあるような箇所では、取得データ量が少なく、移動先分析が不十分となってしまいました。また、モニターの数が少ないこともあり、レシートスキャンによる購買データの取得量が想定よりも少なかったため、購買データ分析のメリットである買い回り分析や観光客の購入分析、観光コンテンツとの関連性分析が十分にできませんでした。
 データ取得場所の追加や、データ種類を追加することにより、例えば、くまモンスクエアで買い物した人が熊本城に立ち寄ってから熊本空港に向かう寄り道の購買行動の傾向分析が可能になったり、熊本空港での訪日外国人含めての行動+購買分析が可能になったりするなど、より具体的な分析ができたらと考えます。そして、データの活用により、「地域の収益化」を実現できればと考えています。
 今回の実証成果を広く共有し、デジタルツール・データの活用や、デジタルマーケティングの理解を促進し、DXの推進に寄与できればと思います。

7.コンソーシアムでの横展開の可能性

・コスト・手間がかからない、ターゲットに特化したデータ取得の取組み。

・データ取得から活用までのデータ活用モデルケース創出の取組み。

・Wi-Fiセンサーを活用した行動データ取得の取組み

10.事業者からの総括コメント

 従来、明確な利用価値を見いだせていなかった行動データに大きな価値があることや、購買データと掛け合わせることにより、お土産などの商品開発等へデータ利活用を活かせることが可能であることが分かり、データに裏付けされた広告マーケティングのヒントを得ることができました。
 そのように、旅行者の利便性向上、周遊促進など、地域を訪れる旅行者に関する実態をデータ分析により、推測することができることが分かったため、今後は、データを活用し、いち早く事業を変革(DX)させる絶好のチャンスと捉えている市町村や企業等において横展開し、データ利活用による効果的な誘客、購買促進を実現していきたいです。

■実施主体

■事業説明動画の配信について

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