熊本県 熊本市

DXの現場から:生成AI 「Chat GPT」の有用性とリスクを検証する実証実験の取組

 熊本市は面積390.32平方キロメートル、人口約74万人で平成24年4月に全国で20番目、九州で3番目の政令指定都市となりました。 同市デジタル部では、「DX推進による行政サービスの利便性と質の向上」と「地域社会のデジタル化による快適で利便性の高い暮らしの実現」を目指しています。そんな中、生成AIについて先進的に実証実験に取組んだ事例について紹介いたします。

生成AIとは?

 生成AIとは、「Generative AI:ジェネレーティブAI」とも呼ばれ、さまざまなコンテンツを生成できる人工知能(AI)の一種です。テキスト、画像、音声などの入力データを受け取り、それに基づいて新しいコンテンツや情報を生成することができ、文章の要約や翻訳、画像の生成、音声の合成など、幅広いタスクに応用できます。最近では、生成AIの進歩により、より高品質な生成結果や自然な表現が可能となり、事務効率化や生産性向上に大きく貢献しています。

 しかし、生成される情報が必ずしも正確であるわけではないため、情報の真偽性を確認する必要があります。また、生成AIは人間の意図を完全に理解することが難しいため、明確で具体的なプロンプト(ユーザが入力する指示や質問)の使用が重要です。 そのほかにも、セキュリティ面での懸念もあり、入力する内容に個人情報や機密情報が含まれていないか注意することや適切なセキュリティ対策を講じることも重要です。

生成AI実証実験目的と概要 

【目的】 業務効率化と市民サービス向上への取組!
 熊本市は2023年6月から8月までの間に、生成AIの業務導入に向けた検証を目的として、Chat GPTの実証実験を実施しました。
生成AIが世界中で急速に普及し始めていることを受け、「行政業務の効率化」と「市民サービス向上への貢献」の観点から、有用性を確かめる実証実験を実施しました。開始にあたり、情報漏洩・誤情報の拡散・著作権侵害といった懸念を洗い出し、リスクと有用性のバランスを考慮した適切な利用方法を実証実験で模索しました。

【概要】 実装に向けたチームを組成し実証実験を開始!
 有効な実証実験とするため、運用方針検討チームと利活用検証チームを組成しました。また、デジタルに関心が強く、生成AIの利用を希望する職員を募り実証実験を開始しました。関心は大きく、100名の利用枠に対し、180名ほどの応募がありました。

生成AI利用リスクへの対応

■情報漏洩のリスクへの対応
 生成AIは、学習データとして入力された情報を利用するため、誤って機密情報や顧客情報、個人情報などを生成AIに入力することで、情報漏洩のリスクが発生する可能性があります。このようなリスクに対応するため、情報セキュリティ環境の整備された、利用時のデータをAIの学習に利用しないサービスを採用しました。また、利用ログを収集することができ、モニタリングおよび管理することも可能です。

■利用者のリテラシー向上
 生成AIの回答には、個人情報保護法や著作権に関連する情報、および誤った情報が含まれる可能性があります。利用者は自身で回答の正確性や適切性を判断する必要があります。生成AIは大量のデータから学習し、自動的に回答を生成しますが、完全に正確な情報を保証するものではありません。特に、個人情報や著作権に関わる情報は、機密性や法的な制約があるため、利用者が適切な判断を行う必要があります。
 このような課題に対応するため、実証実験開始に際しては、人工知能学会のガイドラインを参考にした「熊本市生成AI利活用ガイドライン」を作成しました。また、事前研修会を開催して利用者のリテラシー向上を図りました。これにより、利用者は情報の信頼性や適切な利用方法についてより理解を深めることができました。

実証実験の結果

■利用頻度と利用用途
 実施期間中、1月あたり全体で約3600件の利用があり、利用頻度は、週1~2回の利用が最も多く、また、利用用途としては、①企画立案(アイデア出し)、②文書作成、③文章要約、④エクセル関数、⑤調査・分析などとなっています。

■利用者の声
 実証実験の結果、生成AIは、業務の効率化、質の向上に効果が認められ、利用者のうち9割が継続して利用したいと回答。利用者アンケート調査の結果、68% が「作業効率向上した」と回答、また、54 %が「作業にかかる時間が短縮」、66%が「作業の質向上した」、68%が「作業の負担が軽減された」と回答がありました。また、個別の利用者意見として、下記のような意見も寄せられました。

■事務効率化の結果
 生成AIの活用により、業務時間を大幅に削減され、事務効率化を実現。人口減少が進展する中、生産性の向上を図り持続可能な市民サービスを提供するためには、生成AIをツールとして利活用していくことは有効であるという結果が得られました。

■課題と今後の方向性
 実証実験の結果、生成AIの利用においてその利用目的やスキルにより、効果に大きな違いが見られるという課題が挙がっています。特に、文書作成や企画立案といった様々な業務での生成AIの利用においては、その特性を深く理解し、適切に応用することで、更なる効率化が可能となります。
 しかしながら、生成AIの活用意識がなければ、業務の進行はこれまでと変わらないままです。そのため、AIを活用する意識を醸成する仕組みの導入と、職員の情報リテラシーや市民とのコミュニケーション力、思考力、課題設定力を含む各種スキルの向上が求められます。

 実証実験を受けて、令和5年10月からは、情報セキュリティ環境の強化と、最新モデルを搭載したBing Chat Enterprise(Copilot)の活用環境を整備することで、生成AIの導入に取り組んでいます。今後は、職員の生成AIの活用能力や情報リテラシーの育成に注力し、テクノロジーの進展や規制の動向を見極めつつ、有効に活用していきます。

DXの展望

■市民体験のDXをトリガーに、市役所全体のDXを加速させる
 熊本市では、生成AIの活用に加えて、日々進歩するデジタル技術やデータを効果的に活用し、行政サービスや日々の暮らしの中に新たな価値や多様な選択肢を生み出すことで、デジタルの恩恵が全ての地域、市民に行き渡り、誰もが毎日の「便利」を実感できるまちの実現を目指しています。
 具体的には窓口関連業務のDX化と手続きのオンライン化を進めていく方針です。オンライン化で増加する業務負担を、データを活用したフローの見直しとBPRに繋げ、効率化を目指しています。市民にデジタルサービスを提供することで、市役所業務のDXを加速させていきます。

熊本県 熊本市(2023年12月時点)

人口: 738,098 人、世帯数:338,983 世帯
面積: 390.32平方キロメートル

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