【令和4年度】DX公募型実証事業

地域と畑を守る持続可能な鳥獣対策DX化プロジェクト

取組概要

1.目  的
 食料の安全保障・農業振興に必要な「鳥獣被害対策」へのデジタル技術の活用
 【参加企業】①株式会社イノP(農家ハンター企業)②ESRIジャパン株式会社(IT企業)
 
2.内  容
 ●鳥獣の出没・捕獲・罠設置等のデータをプラットフォーム上で可視化
 ●ハンター、行政、農家等の関係者間で情報を共有
 ●市町村への鳥獣捕獲報告アプリ(補助金申請用)の構築
  
3.技術要素
 ①鳥獣データプラットフォーム
  ・オンライン地図(GIS)サービス上に各情報を蓄積
  ・ドローン、自動撮影・赤外線カメラによる撮影画像を蓄積
  ・鳥獣の活動状況をヒートマップで可視化
 ②鳥獣捕獲報告アプリ
  ・スマートフォン/タブレットから報告できるアプリケーションの構築
  ・AIを活用した申請内容(捕獲写真)の適否判定

4.効  果
 ①鳥獣の出没、被害、対策状況の可視化による鳥獣駆除の増
 ②関係者間の情報共有の大幅な迅速化
 ③場所・時期・数量等のデータ蓄積による出現予測・対策の精緻化・効率化       
 ④捕獲報告手続きの申請側・受領側の事務手続き省力化(農家・市役所)
 
5.今後の展望(参加企業代表:株式会社イノP)
 鳥獣対策DXの本モデルを、県内の市町村へと確実に広げていきたい。
 また地域の担い手として期待される若手農家が日常的にITツールに触れることで経営力が高まり、地域の中で「頼られる存在」になっていくことは農村のサステナビリティを高め、同時に「職の多様性を守る」ことにつながると考えている。今後も精力的に活動を続けていきたい。

6.コンソーシアムでの横展開の可能性
 ①ドローンやAIの様々な分野における積極的活用
 ②オンライン地図(GIS)サービスを活かした情報共有の展開

はじめに

これまでは各地域で独自の鳥獣被害対策を実施し、近年ではICT化が進み、鳥獣被害対策においても様々なソリューションを用いて対策を行っていましたが、地元の猟師や自治体職員の経験や勘に基づく対策となっており、データに基づく対策や効果検証が実施できていない状況にありました。
そこで、これまで様々な手法およびソリューションで収集された⿃獣被害情報や関連する情報をGIS(地理情報システム)を用いた「⿃獣被害対策情報プラットフォーム」に集約し、課題提供者はもちろん⾏政や住⺠・教育機関までが、集約された情報を参照し効率的な⿃獣被害対策ができるような仕組みづくりを検討・実証します。

取組の経緯、抱えていた課題について

株式会社イノPの所在地である宇城市三角ではイノシシによる農作物被害が増加しており、営農意欲を失った農家が離農し、耕作放棄地が増え、さらに鳥獣被害が増加するという傾向にありました。そこで地域の若手農家からなる「農家ハンター」の取り組みを始め、罠によるイノシシの捕獲やIoT機器を駆使した有害鳥獣情報の取得を行っていました。
しかし捕獲数は増えているものの、本当に効果が出ているのかデータとして検証できておらず、また異なるIoT機器で収集する情報を集約することが出来ていなかったため、情報の有効活用ができていませんでした。
そこで、2019年より利用していたESRIジャパン株式会社が提供する、地図情報プラットフォームを活用して、様々なデータを複合的に管理できる「⿃獣被害対策情報プラットフォーム」の実証を行うこととなりました。

プロジェクト取組内容

【実施⽅法①】県や市区町村等から共有される捕獲報告書をデータ化しプラットフォーム上に集約・整備
県や市区町村が保有する捕獲報告書などの情報を集計し⿃獣被害対策PFに登録いたします。登録した情報を農家などの住⺠に対して⿃獣被害対策PFを介して情報公開し、⿃獣被害対策の基礎情報として活⽤できるような情報基盤を整備します。

【実施⽅法②】電⼦調査票を活⽤した効率的な⿃獣に関するデータ収集および情報共有
主に農家などの住⺠が電⼦調査票から⿃獣被害対策PF上に⿃獣の捕獲情報や被害情報などを登録し、⿃獣被害対策PFに集約された情報を元に構築したモニタリングアプリから⿃獣の分布や分布域の時系列変化等を把握します。

【実施⽅法③】⾃動無⼈撮影カメラで撮影された⿃獣の画像を⿃獣被害対策PF上で迅速に可視化・共有
通過した⿃獣を撮影し画像情報からどの⿃獣かを⾃動判定する⾃動無⼈撮影カメラ「ハイクカム」の取得情報を即座に⿃獣被害対策PFに反映しどこに出没しているのか可視化する実証を行います

【実施⽅法④】⽬視できない個体群のドローンによる把握および⿃獣被害対策PF上に情報登録・共有
昼間でも⽬視できない個体群や夜間に⾏動する個体群に対しドローンで可視画像や熱⾚外画像を撮影して鳥獣被害対策PF上で可視化します。
⽬視に頼る電⼦調査票などでは捕捉できない情報をドローンを活⽤して補完します。

【実施⽅法⑤】餌場となりうる農地や隠れ場となる耕作放棄地の情報収集と可視化
イノシシやシカなどにとって餌場となりうる農地や隠れ場となる耕作放棄地に関する情報を電⼦調査票やドローンで撮影した画像情報、または市町村が持っているデータを活用し鳥獣被害対策PF上に可視化します。優先的に対策を施すべき農地の選定を⾏います。

【実施⽅法⑥】防護柵の設置状況の可視化と情報共有
⿃獣被害から農作物を守る防護柵について、どのような柵をいつどこに設置したのか︖ 設置状況を調査し鳥獣被害対策PF上に可視化します。新たに防護柵を構築する必要がある農地や防護柵が劣化し⼊れ替えを⾏う必要がある農地の選定を行います。

現在の状況について

【実施⽅法②】電⼦調査票を活⽤した効率的な⿃獣に関するデータ収集および情報共有
・スマートフォン上で動作する捕獲報告入力のプロトタイプ(捕獲報告アプリ)を開発
・AI判読させる鳥獣画像のサンプルデータ収集、AI学習モデル構築の準備

【実施⽅法③】⾃動無⼈撮影カメラで撮影された⿃獣の画像を⿃獣被害対策PF上で迅速に可視化・共有
・⾃動無⼈撮影カメラのAPIを使用した連携用プログラムを作成
・地図上のカメラと撮影された写真画像を同時に閲覧可能なWeb-GISアプリのプロトタイプを開発

【実施⽅法④】⽬視できない個体群のドローンによる把握および⿃獣被害対策PF上に情報登録・共有
・ドローンの撮影動画サンプルデータのGISアプリ上への取り込み検証を実施
・地図と動画の連携閲覧用のGISプロトタイプアプリの試作

今後の展望について:事業者からのコメント

本実証では特定地域での実証に過ぎないため、県全体などさらに広範囲で様々なケースを想定し、実施すべきだと考えています。
また、様々な外部サービスとの連携ができるプラットフォームであることから、各専門分野のソリューション(画像AIサービス、ドローンデータ解析サービス、RPA 等)との連携も実証することでさらなる利用範囲、活用方法が生まれる可能性があります。
農家ハンターという有志活動の取り組みから6年、今回のDX実証事業参加を機に形にすることができた参学官民が連携した鳥獣対策DXのモデルを、県内の市町村へと確実に広げていきたいと思っています。また地域の担い手として期待される若手農家が鳥獣対策を機にITツールにふれあうことで経営力が高まり、地域の中で頼られる存在になっていくことは農村のサステナビリティを高め、同時に職の多様性を守ることにつながると思いますので、今後も猪突猛進、活動を続けていきたいと思います。

実施主体

【株式会社イノP】(熊本農家ハンター)
「もう農業ばやめようて思うとたい…」 2016年2月、イノシシ被害のショックから離農をすると語ったおばあちゃんの一言が始まりでした。 里山に下りてきたイノシシは、住民の安心安全をおびやかす状況になっています。 そこで地域を災害から守る消防団活動のように、鳥獣被害から地域を守り、被害による離農ゼロを目指して、若手農家によるイノシシ対策の活動を熊本県三角町戸馳より発信。 今回の公募型実証プロジェクトではドローンやAiを活用し地図データに落とし込むことで先進的で効率的な鳥獣対策の構築を目指します。

【esriジャパン株式会社】
GIS(ジー アイ エス:Geographic Information Systemの略称で日本語では「地理情報システム」と訳されます)世界トップシェアを誇る「ArcGIS」を提供しています。 地球上に存在する地物や事象はすべて地理情報と言えますが、これらをコンピューターの地図上に可視化して、情報の関係性、パターン、傾向をわかりやすいかたちで導き出すのが、GISの大きな役割です。 今回は鳥獣対策のデータを地図上で可視化し分析可能なサービス構築でプロジェクトを強力にバックアップします。

令和5年度の募集について

熊本県ではこのようなDXの先進的な実証事業を令和5年度も募集いたします。
詳しくは下記リンクを参照ください。