株式会社熊本放送
AIなどのデジタルツールを活用した全社的業務改善
熊本放送(RKK)は、1953年にラジオ局として開局し、1959年にはテレビ放送を開始した熊本県を代表する放送局です。地域に根ざしたニュースや番組を通じて、熊本の暮らしに寄り添う情報とエンタメを届けています。
視聴者のニーズに応えるため、デジタル技術を活用した番組制作や業務効率化などを進めており、2025年3月には経済産業省の「DX認定制度」において放送局として全国で4例目となる認定を取得しています。また熊本市が主催する令和6年度中小企業等DXアクセラレーション事業に参加し、自社の経営課題等について、デジタル技術を活用し業務改善に積極的に取組んでいます。今回は、業務改善に向けた同社の取組みをご紹介します。
DX推進部署設立と業務改善の取組み
これまで、業務における困りごとや課題が生じた際には、各部署が個別に業務改善に取組んでいました。具体的には、TBS系列27局間の横のつながりを活用し、他局の成功事例を参考にしながら改善策を模索していました。しかし、放送局ごとに規模や予算が大きく異なるため、参考になる事例が限られており、知見も十分ではなかったことから、最適な業務改善を実現するのは困難でした。また、困りごとや課題を把握する際も、部署単位での取組みにとどまるため、業務全体を俯瞰して把握するのが難しいという課題がありました。
そこで全社的な業務改善や情報収集、社内相談の解決を担う部署として、2022年に「DX推進部」が設立されました。DX推進部の役割は大きく分けて3つあり、①社内の業務改善、②新規ビジネスの調査・立ち上げ、③社内のリソースやコンテンツのマネタイズです。なお、3つの役割を果たすための取組みとしてデジタル技術を活用する場合もあり、DX推進も担っています。
DX推進部において全社的な業務改善に取組むため、全社員を対象に業務における困りごとや課題に関する社内アンケートを実施しました。これをきっかけに個別の相談も寄せられるようになり、各部署の具体的な悩みや課題を把握することができました。
アンケートの回答をもとに、DX推進部は各部署へのヒアリングの実施や打ち合わせに参加することで業務改善に取組みました。さらに、DX推進部が第三者として関与することで、各部署だけでは見つからなかった困りごとや課題を把握できるようになりました。また、系列局に限らず、幅広く情報収集しより適切な対策を検討するようになりました。
業務改善に取組むにあたり苦労した点は、社員からの理解を得ることです。長年同じ方法で取組む業務が多く、たとえ改善が目的であっても方法を変更することへの心理的な抵抗がありました。しかし、小さな業務改善の成功事例を積み重ね、理解を得ることが出来ました。
成功事例①- Google Workspaceによる業務効率改善-
小さな業務改善の成功事例の一つに、営業部門における報告業務の改善があります。
●抱えていた課題
これまで営業部門では、各支社の売上実績や見込みを各営業部長がエクセルで資料を作成し、メールで報告していました。この作業には1回あたり30分から1時間の時間を要し、月に3回の報告を行うため業務が煩雑となり部長に大きな負担が生じていました。
●取組み内容
Google Workspaceの導入により、スケジュール管理やデータ共有が各支社からオンラインでの同時編集が可能になりました。営業部門の報告業務でも、Google Workspaceを利用しオンラインでの同時編集で資料を作成するようになり、資料のメール送信の必要が無くなりました。
また、報告方法を見直すと同時に報告の必要性と最適な頻度を見直し、報告回数を月3回から月2回へ変更しました。
●導入の効果と今後の展望
資料のメール送信が無くなったことで、業務効率が改善されました。また、報告回数を見直すことで業務の負担を減らすことができました。
なお、Google Workspaceの導入により、営業部門の報告業務のような業務効率化が実現し、年間1,400時間の業務削減効果が見込めるようになりました。
成功事例②:-RKKアプリを利用したグッズ販売-
DX推進部において、社内のリソースやコンテンツのマネタイズとして熊本放送が提供しているスマートフォン向けアプリ「RKKのアプリ」の利用拡大に取組みました。
●抱えていた課題
「RKKまつり」には毎年多くのお客様にご来場いただいており、特に番組関連したグッズの販売は大変好評です。
2022年のグッズ販売では、販売開始予定時刻より早い時間から多くのお客様にお並びいただき、会場内では収まり切れないほどの混雑となったため、販売開始時間を繰り上げて対応しました。それにより、販売開始予定時刻には多くの商品が売り切れてしまう事態となり、告知を見て販売開始予定時刻に来場したお客様には商品をご購入いただくことができないという問題が生じてしまいました。
なお、お客様が早い時間に集中したことから、商品の決済や受け渡しといった販売業務においても大変な混雑が生じるという課題がありました。
●取組み内容
グッズ販売での混雑解消やお客様への公平な販売に向け、既に熊本放送で提供していた「RKKのアプリ」を活用したグッズの販売・事前決済の仕組みづくりに取組みました。
具体的には、お客様にアプリ内で商品を購入、決済していただきます。なお、商品と同時に無料の「受取希望時間券」を決済いただき、「RKKまつり」においてお客様のご希望する時間で商品を受けとっていただくようにしました。
グッズ販売の運営改善に向け、新たなシステムやリソースを導入するのではなく既存のアプリに目を付けることで、アプリの利用拡大や高額な費用をかけない業務改善を実現しました。
●アプリ利用の効果
「RKKのアプリ」を利用したグッズ販売を行うことで、お客様に長時間お並びいただく必要が無くなりました。また、決済が事前に済んでおり商品を渡すだけとなったことで、会場の混雑が解消されました。なお、「時間通りに会場に来たのに購入できない」という不公平感もなくなり、グッズ販売に関するお客様からのクレームはほとんどなくなりました。
さらに、社内からアプリ活用に関する相談が来るようになりました。例えば、これまでHPの特設ページを利用していたイベント案内などです。HP特設ページの作成は専門の業者に依頼していたため、修正に時間がかかる他、多額の費用がかかっていました。アプリでは、社内で簡単にイベントページを作成や修正ができ、費用もかからずイベントの案内をすることができます。このように、「RKKまつり」でのアプリ活用をきっかけに、社内でのアプリの企画・設計・活用の意識が広がっています。
成功事例③:-AIによるFAXのチェック-
DX推進部において、業務改善の施策の1つとしてAIの利用も推進しています。
●抱えていた課題
熊本放送では、道路情報や事件情報といった報道に関する情報や番組へお便りなど、多くのFAXを受け入る状況にあります。報道番組に携わる報道部ではFAXが1日に40件ほど届き、毎日1件1件をチェックするのに時間と労力がかかっていました。
●取組み内容
情報を提供いただく企業・団体の多くはFAXを依然として利用しているケースが多く、単純にFAXを廃止するだけでは課題解決に至りません。そのためFAXで送られてきた資料をPDFデータで取り込み、AIが内容を解析した上でスプレッドシートに送信者や受信時刻、内容を要約したタイトルを自動的に記載する仕組みを導入しました。FAXで送られてくる資料は、送信者により形式がバラバラであり、手書きの場合や複雑な図形である場合もありますがAIは問題なく内容を読み取ることができます。このシステムは系列局において開発されたものをご紹介いただき利用を開始しました。
●導入の効果と今後の展望
AIによるFAXのチェックは現在、実証実験中でありますが、AIの利用により簡単にFAXの内容を把握することができるようになりました。
なお、将来的にはFAXの資料をもとにAIによる自動原稿作成や情報の重要度によるアラート機能も検討中であり、さらなる業務負担の軽減を目指しています。
今後の展望
今度の展望としては、「RKKのアプリ」により収集した顧客データの活用に取組みたいと考えています。例えば、グッズ販売において、商品ごとに購入者の年代や性別を分析したり、売り切れるまでの時間を把握したりすることで、次回のグッズ考案や販売数を決める際に活用したいと考えています。
さらに、AIの活用も進めたいと考えており、AIによる原稿や画像データの誤用・誤字・固有名詞の間違いなどのチェックや、実際のアナウンサーの映像や声を利用し、多言語に対応したAIアナウンサーの導入を模索しているところです。
また、DX推進部は現在2人で運営しています。今後はDX人材を増やし、社内全体にDX意識を広げることが目標です。中途採用も含めて人材確保を進めたいと考えています。
これからDX取組む企業へのメッセージ
DXの取組みは従業員の業務を減らし、効率化によって余剰時間をクリエイティブな活動やアウトプットに活用することが本来の目的です。単なる人員削減やコストカットではなく、今いる従業員の負担を減らし、その分を会社への貢献につなげてもらうことが重要です。また、DXは必ずしもデジタルツールの導入だけでなく、既存の仕組みやプロセスの見直しも含まれます。経営者の理解と決断が不可欠であり、現場と経営層の距離感が近いことが成功のポイントです。まずは小さなDXから始め、無料相談なども活用しながら無理なく進めてみてはいかがでしょうか。
会社概要
社名 | 株式会社熊本放送 RKK Kumamoto Broadcasting Co., Ltd. |
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所在地 | 熊本市中央区山崎町30番地 |
代表者 | 代表取締役社長 坂口 洋一朗 |
事業内容 | ラジオ・テレビ放送 |