【令和6年度】データ活用事例創出事業
AIカメラによるデータを活用した中心市街地の回遊促進
1.概要
本事業は、熊本市中心市街地への来訪者数の増加と回遊促進を目的として、AIカメラにより取得したデータや
行政・民間が保有する多様なデータを活用し、来訪者数や回遊状況の把握、回遊促進に向けた施策の企画・実施、
そして施策効果の検証を行う取り組みです。
2.解決すべき課題・背景
コロナ禍を経て中心市街地の来訪者の増加やインバウンド需要の増加が見られる一方で、中心市街地は来訪者や観
光客の増加の半面、中心市街地でイベントが行われた時でも回遊の傾向が少なく、人の流れが2019年を境に低迷傾
向にあります。
AI技術を用いて、中心市街地の人流や属性を把握、取得したデータを分析することが、歩行時間・滞在時間、
さらには消費増加と回遊促進に繋がる施策を検討、検証する上で、有効ではないかと考えました。
そこで、中心市街地で開催されるイベントなどの来訪者が増加するタイミングに、イベントのターゲットに応じた
施策を検討、実施しました。
3.取組内容
(1)取組内容
①来訪者数、回遊状況の把握
・熊本市の中心市街地と花畑広場にAIカメラを設置し、AI技術を用いて来訪者数、回遊状況を把握しま
した。
・GPSによる人流(通行量、方向、性別など)データ、インバウンドなどに係る観光統計データなどを取得
し、熊本市中心市街地への来訪者数や回遊状況を把握、分析しました。
【カメラ設置状況】
サクラマチ クマモト1F正面玄関3台(中央/南側/北側)、花畑広場3台、中心市街地3台
【活用データについて】
【訪問者数、回遊の状況】
<サクラマチへの来館者の傾向について>
・女性の来館が多く、年代により来館に差があった。男性は年代が幅広く来館している。
・平日・土日祝の来館者数で男女を比べると女性の来館時間は午後以降に集中している。
<サクラマチと商店街比較について>
・各中心市街地を性別でみると男性の来訪が多く、年代でみると50~70代の来訪者が多いことから、
サクラマチの来館者傾向と異なることが分かった。
<中心市街地の来訪者回遊状況>
・人流が多い順としては、
下通から銀座通り>上通から通町筋>花畑広場サービス棟前>花畑広場から新市街
であった。
【AIカメラで取得したデータ】
■サクラマチAIカメラ
■中心市街地AIカメラ
【AIカメラとGPSデータで取得したデータ】
②施策の検討、実施、効果の検証
分析結果に基づき、来訪者数の増加、回遊促進につながるようターゲットを明確にしたうえで、イベントや
キャンペーンなどの施策を企画し、実行しました。
<実施した施策>
[施策1]「サクラマチ クマモト」インバウンド観光客への認知拡⼤〜集客促進」
活用データ:AIカメラ、自社データ、SNS広告データ
期間:2024年11月16日(土)~29日(金)
内容:インバウンド向け観光推進SNS広告投稿
ターゲット層:台湾・韓国から熊本(日本)へ観光目的がある人
~実施結果~
a.オープンデータと自社SNSアカウントデータを活用し、インバウンド観光客へ向けたSNS広告配信
する際の国別ターゲット層を台湾・韓国とした。
b.事業前は目視などでの認識しかできなかった
が、免税カウンター利用者数などデータ化し可
視化することで国籍別の来館者が分かるように
なった。
c.AIカメラでは国籍まで判別することが出来
ず、活用が難しいことが分かった。
[施策2]「クリスマスマーケット」からサクラマチへ入館客数をより増やせないか
活用データ:AIカメラ、クーポンデータ、オープンデータ、GPSデータ
期間:2024年12月8日(日)~25日(水)
内容:サクラマチグルメWebクーポンの配布
ターゲット層:「クリスマスマーケット」イベント来場者30~59歳の男女
~実施結果~
a.今まで目視やヒアリング調査などでターゲット層を30~40代など設定していたが、取得したGPS
データでは、30~59歳の来訪者が多いことから、施策のターゲット層をデータに基づき幅広く設定した。
b.実施後、サクラマチに設置したAIカメラのデータから12月単月来館者の属性(年代)をみると、その他
の月と比べ10~20代の来館数増がみられ、傾向を可視化することができた。
c.サクラマチAIカメラデータ取得期間で施策実施前月と比較し男女年代別でみると、20代の来館増が
顕著にみられ、12/25クリスマス当日の水曜日と土日祝で10~30代の増加が見られたことから、設定した
施策ターゲット層よりも若い人も来訪傾向にあることが分かった。
d.AIカメラデータとGPSデータを活用し、花畑広場でイベントがある際の各中心市街地との影響度
(相関関係)を見ると、土日祝日の花畑広場とサクラマチクマモトの来訪者数に高い相関がみられ、
人流に影響があることが分かった。
[施策3]中心市街地イベントにより中心市街地全体での回遊を可視化、回遊促進につながる方向性・課題を
把握する
活用データ:AIカメラ、GPSデータ、アンケートデータ
実施:3月上旬
内容:過去データ分析(GPSデータなど)・アンケート調査など
~実施結果~
a.中心市街地に設置しているAIカメラから、
下通の通行量が最も多く、また下通への流入
(新市街側・電車通り側)に大きな差はなか
った。
b.GPSデータから、花畑広場でのイベントによ
る各商店街への回遊は、花畑広場に近い商店街・
アクセスがしやすい商店街(新市街・下通)が
85%を占めていた。
c.AIカメラデータやその他データの補足として
街角アンケートも実施。回遊・来街促進効果があ
る滞在時間を増やすため、来街者が街に必要とし
ているのは、自分の時間が過ごせる場所である休
憩ができる場所、勉強ができる場所、子供が遊べ
る場所などが約40%を占めていた。
(2)活用したAI技術
①AIカメラについて
・AI顔認証カメラとして客層属性(性別・年代)分析が可能
・オレンジの認証範囲を通過することでAIが属性判別しデータ集積
・収集データは2~3か月間保存が可能
・防犯用カメラとしても活用可能
4.解決すべき課題に対する成果・課題点
(1)来訪者の把握におけるAIカメラ活用の有効性と課題
①これまで、来館者の人数や年代・性別等の情報は、通行
人の目視調査やアンケート、または店舗へのヒアリング
などで把握しており、人手や時間を要していたが、AI
カメラにより効率的、継続的に取得することが出来るよ
うになった。取得データとあらゆるデータを掛け合わせ
ることで、的を絞ったターゲット層の分析が可能となっ
た。
・AIカメラ属性(性別・年代)× 曜日・時間・日付
・AIカメラ属性(性別・年代)× クーポン利用回数
・10歳刻み・5歳刻みの分析も可能
②今回使用した、AIカメラでは訪日外国人の識別が困難であること、カメラの取付け箇所や設定、台数により年
代の判別に誤差があることが分り、検証が必要である。今後、AIカメラの設置箇所の増設、またAI学習能
力や識別範囲(国籍・目的)などの性能向上が行われることで、より高度な分析が可能となるのではないかと
考える。
(2)データ活用の利点と課題
①施策検証の結果から、中心市街地とサクラマチや花畑広場などの特定の施設や場所など双方の来訪者の影響や関
係性を可視化、分析し、ターゲット層の人流把握やイベント開催時との関係性が見えることで、回遊促進の施策
の方向性の検討に有効であることがわかった。
複数データ(AI×人流データ×自社データ×オープンデータ) の組み合わせで、イベントシーズン・時間帯別で
の人流の傾向や来訪者の属性傾向など、広域で可視化でき、施策検討や効果検証に有効であると考える。
②長期的にデータを取得・分析していくためには、AIカメラの運用費や、GPSデータなどのデータ取得費用が
高額であることが課題である。
5.今後の展望・総括コメント
AI活用を通して人々の動きを可視化し、熊本の中心市街地だけでなく、観光地など県全域の地域活性施策や課題解決に繋げ、産官学で連携を図りながら、住みやすい/賑わい/行ってみたい場所など熊本の魅力向上に努めていきたい。