大海水産株式会社

水産業全体の業務プロセス改革への取組み
~水産物情報のデジタル化~

 大海水産株式会社は、高品質でおいしい世界中の水産物を毎日、安定的に、適正な価格で提供する仕組みを担う、熊本県内有数の水産荷受業者です。当社は「デジタル活用による食の安全確保と魚食普及」をビジョンに掲げ、積極的にDXに取り組んでいます。今回は“くまもと田崎市場”の活性化・水産物の魅力発信に尽力する、当社のDXへの取組みと水産物情報のデジタル化についてご紹介します。

大海水産DXの取組み

◎当社概要
 大海水産は、昭和38年に開設された、熊本地方卸売市場(くまもと田崎市場)で水産荷受を主業務とする会社です。熊本の地の利を生かし、地域の人々の豊かな食生活創造に貢献しています。さらに適正価格を維持するため、県内外はもとより世界中から高品質な海の幸を探し、家庭へ提供しています。関連会社を含め、各地の生産者とタイアップした水産物のブランド化や、食育を通して魚に親しむきっかけをつくり、熊本の水産物流通全般を担う立場として業務に取組んでいます。

◎会社のデジタル変革のためDX計画を立案
 デジタル化の急激な浸透と、くまもと田崎市場の課題を考慮に入れ「大海水産株式会社DX計画2023」を立案しました。この計画は長年蓄積された当社の技術/情報と若手社員のアイデアを組み合わせて作成されています。デジタル技術による革新で新たな価値を創出するかどうかは、全社を挙げた継続的な取組みにかかっていると考えており、SDGsへの取り組みと、未来へ向けたDX適応を組み合わせ、新たなくまもと田崎市場を構築する基軸を作り出すことを目指しています。

大海水産が担う熊本の競り

◎競りとは・・・
 大海水産は、くまもと田崎市場の水産物の競りを取り仕切っています。
 一般的に水産業における競りとは、漁獲された海産物や水産物が最高値をつけるように競争的に販売される取引のことを指し、早朝に開催されます。競りの方法は、市場によって異なりますが、熊本の競りは「盆競り」という、金額を書いた手持ちの黒板を一斉にあげて、最も高値を付けた業者に競り落とす方法です。オークション形式の競りとは異なり一発勝負で、1件の取引につき約3~5秒で価格と売り先が決まっていきます。
 競りは、商品の品質や鮮度、需要と供給、季節などによって価格が大きく変動します。そのため、競りによって需要に合った価格決定を行うことができ、生産者から消費者まで全体の利益を追求する公正公平な取引を実現できるのです。

◎大海水産の競り
 大海水産が取り仕切る市場は5つのレーンが存在し、1日に約3,000件の取引が行われます。3,000件の取引記録は競り人と記帳係のペアが紙の「水帳(みずちょう)」と呼ばれる帳票に記録しています。競りが始まる前に水帳簿に荷主、品目、重量を事前に記載し、競りが始まると単価と買主を記載します。職人技で競りの場をコントロールしつつ記録をしており、仕切り書、メモを含めると1日で作成される水帳の量は約500枚にのぼります。多くの情報が競りの最中に記入され、終了後に事務所に持ち帰り、営業事務担当社員の手によりデータ化されます。

目指している未来の競り

◎水産物情報をデジタル化した競り
 前述した水帳は1日当たり500枚、取引は3,000件発生します。手書きで3,000件の伝票起票の後、事務員がダブルチェック/データ化を目的としてPCサーバに入力するため、6,000件にのぼる取引記録の作業が発生しています。市場が開いている日数分水帳が作成されるため、水帳簿は年間260冊、130,000枚の紙と作業が発生していることになります。
 大海水産は取引で発生する紙帳票の煩雑な事務と、伝票起票による取引先の仲卸業者や鮮魚店、飲食店の効率化を図るべく水帳のデジタル化に着手しました。タブレットなどの電子デバイスで水帳を代替するシステムをベンダーと開発、このシステムで紙の削減はもちろん、これまで手書きしていた伝票や、紙から手入力によるデータ化の作業を効率化させ、すべてのサプライヤーの業務効率化も見込めます。競りの進行とともに物が次継ぐに流れていくのに対して取引情報が売り先に渡るのは数時間後、という課題を打開させるシステムとなっています。水産物1つ1つに品番がふられているため、情報を一元化し記入の手間を省くことにも一役買っています。事務員、営業担当者の作業負担も1人当たり2時間程度の削減を見込みます。システムの開発には現場の若手に参加してもらいながら、視認性や操作性、競りのスピードに耐えうる処理速度を考えたデバイスを選定し、実装に向けて実証実験中です。

水産物情報デジタル化~3つの課題と対策~

◎課題と対策でDX戦略の実行を目指す
①現場への定着
課題:水帳には、50年のノウハウが詰まっています。
   競り人は商品をさばき、これまで培った技量で単価をコ
   ントロールし売上を立てているため、デジタル化に対す
   るアレルギー反応が起きないよう、本稼働時期を探るこ
   とが必要です。
対策:現場の若手の意見を取入れながら、より馴染みやすいシ
   ステムを開発しています。
   全社的にデジタルの機運を高めつつ、導入時期/稼働テ
   ストに多くのメンバーを巻き込み進めて浸透を図りま
   す。

②ネットワークインフラの整備
課題:水帳の電子化には、水産物を素早く取引する競りに対応できるネットワークが必要です。
   市場内のネットワークインフラの整備を行い、通信速度の向上を図る必要があります。
対策:入力の都度、サーバにアクセスするとジョブの処理待ち時間が生じます。
   そのため競り中はオフラインで入力作業を行い、後でデータを一括送信する機能を採用し、ネットワーク
   インフラ課題に対応しました。
   今後は競り場で常にネットワークと繋がる仕組みを検討していく予定です。

③デジタル人材の教育
課題:自社でシステム保守ができるよう、エンジニアの育成が必要です。
   保守が難しくなっているシステムが社内には多く残っており、扱える人材が少なくなっています。
対策:デジタル人材育成に力を入れ、資格取得を推奨中です。
   少しづつデジタルが浸透していく組織風土を醸成していこうと考えています。

デジタル化への取組み

◎今後の展望
 水帳の電子化が本格稼働すれば、会社のデジタル化は大きく動き出します。今回はデジタルリテラシーの高い若手にシステム開発へ参加してもらうことで、より現場を重視した仕組みが構築されました。これまでの競りの雰囲気を崩すことなく稼働させることで、大海水産とお取引先の効率化に貢献すると考えています。今現場で働く従業員も、将来の従業員にも受け入れられるよう、入念に実証し、確実に導入が実現できるよう取り組んでまいります。社内ではIT関連の資格取得者も増えてきており、少しづつデジタル化の機運は醸成されていると実感しています。
 その他、関連会社のデジタル化にも取り組む必要があります。目下ではお取引先であるスーパーが使用するEDIの開発/繋ぎこみが控えているため、取組みを進める予定です。グループ会社間での基幹システムサーバ、ネットワーク統合は10年前に完了しております。今後は基幹システムのクラウド化を視野に入れています。
 全社的なデジタル化と同時に情報セキュリティの強化を図り、未来に向けたDXの適応を図りたいと思っています。

※EDI:商取引で発生する発注書や納品書、請求書などを電子化し、取引先と専用回線で接続してデータでやり
     取りする取引のこと

会社概要

会社名 大海水産株式会社
住所 〒860-0058 熊本市西区田崎町484 熊本地方卸売市場内
創業 1950年8月8日(昭和25年)
従業員数 67名(男性48名 女性19人)
代表者 代表取締役社長 豊増 悟
関連会社 大豊食品㈱
大海冷蔵㈱
㈱熊本地方卸売市場
熊本水産物取引精算㈱
熊本市場冷蔵㈱