避難所で生まれ、1週間で50万人が利用。令和8年熊本地震 生活情報板「イマココナビ」

本記事は、くまもとDX推進コンソーシアムの主催で、2026年9月16日(水)に開催したDX事例共有会「1週間で50万人が利用。 イマココナビの事例から考える、地域課題とシビックテック。」で話された内容を記事化したものです。

※シビックテック(CivicTech)とは、市民(Civic)がテクノロジー(Technology)を活用し、地域課題の解決を目指す取り組みを指します。

令和8年熊本地震の発生後、被災地では、営業している店舗や給水場所、物資の配布など、日々変化する生活情報を「どこで、どうやって知るか」が大きな課題となりました。

そうした中、被災者の一人であり、くまもとDX推進コンソーシアムの会員でもある加悦美里さんが、避難所でスマートフォンとAIを使って立ち上げたのが、生活情報サイト「イマココナビ」です。

公開初日には1日で26万人が利用。公開から1週間で合計50万人が利用し、最大時には常時数千人が接続するサービスへと急速に成長しました。

なぜ、一人の市民が立ち上げたサービスが、これほど短期間で多くの人に利用されたのか。

一方で、急激な利用拡大によって、セキュリティやサーバー負荷など、当初想定していなかった技術的・運営上の課題も見えてきました。

本イベントでは、発起人の加悦さんから、立ち上げの背景や当時の状況、地域から情報が集まり、利用が広がっていった過程を共有。

さらに、イマココナビ公開翌日から開発・運営のサポートに加わった株式会社エルボーズは、「なぜ急速に利用が広がったのか」「急拡大によってどのような設計上の課題が生まれたのか」を、日頃からWebサービスの開発・運営に携わる立場がら振り返りました。

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避難所で生まれた掲示板は、なぜ50万人に使われたのか。

避難所でスマートフォンを開くと、Threadsには、水やガソリン、生活必需品を探す人たちの投稿が流れていました。

御船町で被災した加悦美里さんも、同じ不安を抱えていた一人です。2016年の熊本地震を経験していたからこそ、これからどんな情報が必要になるか、具体的に思い浮かびました。

目に留まったのは、困っている人の投稿に、別の誰かが現地の情報を書き込んでいる光景でした。どこに行けば買えるのか、どの店が開いているのか。助け合いは、すでに始まっていました。その情報を一か所に集めれば、もっと多くの人の役に立つのではないか。

加悦さんは、その夜、避難所でスマートフォンからAIに指示を出し始めました。こうして生まれた生活情報サイトが「イマココナビ」です。公開初日で約26万人、公開から1週間で約50万人が利用しました。

なぜ、短時間で作れたのか。なぜ、多くの人に使われ、情報が集まり続けたのか。そして、急拡大するサービスをどう支えたのか。

2026年9月16日、くまもとDX推進コンソーシアムのイベントで、イマココナビの発起人 加悦美里さんと、技術支援・共同運営に携わった株式会社エルボーズ代表取締役の小谷草志さんが、その過程を振り返りました。進行は、同社社長室長の椿原ばっきーさん。

3人の対話から見えてきたのは、課題を見極め、必要な機能を選び、人の協力を集めていく具体的な判断でした。

いったん今日が乗り切れたら…。解決する課題や提供価値を絞った初期開発。

加悦さんは、普段は美容室などの店舗経営やマーケティングの仕事に携わっています。仕事でAIを使い、簡単なウェブサイトや自分用のアプリを作った経験はありましたが、掲示板を制作するのは初めてでした。

それでも、普段から触れていたAIの能力を知っていたため、翌朝までには形にできそうだという見通しがありました。自然な言葉で指示し、出てきた画面を確かめ、修正を重ねる。約20回のやり取りで、サイトの大枠ができたといいます。

公開を判断する基準は、はっきりしていました。訪れた人が説明なしに使えるか。情報を見つけやすいか。その時点で困っている人のニーズに合っているか。見た目の洗練や、細かなカテゴリの追加は、後に回しました。

加悦さん「いったん今日が乗り切れたら…いう感じで出しました」

まず、その日の生活を支える情報が見られるようにする。必要なものを選び、公開する時点を決めたことが、開発の速さにつながっていました。

小谷さんは、この判断の難しさに注目しました。

小谷さん「本当に一番初めに出すべき機能って何だったのかって、すごく難しい。この判断ができないことが多いんですよね」

企業のDXやAI活用の現場でも、検討を始めると、あると便利な機能は次々に出てきます。小谷さんは、その様子を、夢が膨らんでいくものとして説明しました。だからこそ、最初の機能を最小限に設計したことに価値があるといいます。

イマココナビでは、使う人の状況が、その線引きを支えました。災害直後の人に今すぐ届けるべきものは何か。その問いが、開発の優先順位を決めていたのです。

機能を減らしても、情報の鮮度は譲らない。開発のこだわり。

最初から欠かせなかったものもあります。小谷さんが、初期の設計でこだわった機能を尋ねると、加悦さんは、利用者登録を不要にすることと、情報への追記を挙げました。

店舗や場所が登録されていても、そこで今何が手に入るかは変わります。10分前にあった水が売り切れる。ガソリンスタンドは開いていても、必要な種類の燃料はなくなる。災害時には、場所を知ることに加え、最新の状況を知ることが必要でした。

そこで、誰かが投稿した情報に、別の人が現地の状況を書き足せるようにしました。情報が今も有効かを簡単に示す機能も設けられていました。現地を訪れた人の小さな行動が、その後に向かう人の判断を助ける仕組みです。

このこだわりは、後にエルボーズが技術支援に入ってからも変わりませんでした。負荷を抑えるため、手動での更新や更新間隔の変更を提案した際にも、加悦さんは、利用者の使い勝手を基準に判断していたと、椿原さんは振り返ります。

機能を絞ることは、必要な価値まで削ることではありません。イマココナビでは、今の情報に手間なくたどり着けることが、設計の中心に置かれていました。

最初の情報、最初の利用者を、どうやって集めるか?

サイトができても、まだ中身はほとんどありません。加悦さんは、SNS上で見つけた情報のうち、正しいと考えられるものを選び、まず自分で書き込みました。

次に行ったのは、困っている人に直接知らせることでした。Threadsで生活情報を探している投稿を見つけ、コメント欄でサイトを紹介していきます。告知用の文章や画像にもAIを活用しました。

その際、被災地の外にいる人にも、シェアや拡散を通して支援に参加してもらえるよう呼びかけました。現地の情報を持っていなくても、必要な人へ伝えることはできます。

翌朝には、所属する商工会青年部やPTAなどにも協力を依頼しました。日頃からのつながりを通じて周知が進み、地域の情報が集まり始めました。

やがて、加悦さん以外の人も、困っている人にイマココナビを案内するようになります。使い方を説明する画像を自主的に作る人や、オープンチャットで共有する人も現れました。

加悦さんが手応えを感じたのは、自分が最初に行った働きかけを、ほかの人たちが引き継いでくれていると気づいたときでした。

この広がりを、椿原さんは次のように説明しました。

椿原さん「このような利用者投稿側のサービスには、"ネットワーク効果"というものがあり、人がいるところに人がもっと集まるし、投稿が集まっているところに投稿が集まるんです」

情報が充実するほど、見に来る価値が高まる。利用者が増えれば、新しい情報も集まりやすくなる。こうした「ネットワーク効果」が働くまでには、最初の情報を入れ、必要としている人へ知らせる働きかけがありました。

加悦さんは、普段のマーケティングの仕事で、作ったものを知ってもらい、使ってもらうための知見を蓄えていました。AIによる制作と、公開後に利用を生み出す行動が、一続きになっていたのです。

利用者の声に合わせ、必要とされるものをつくる開発・改善の手法。

イマココナビには、最初の公開時から、意見や不具合を伝える窓口がありました。加悦さんはそこに届く声を見ながら、SNS上の困りごとにも目を向け、サイトを改良していきました。

コインランドリーや飲食店の情報を加える。支援物資を届けたい人に必要な情報を載せる。時間がたち、仕事が再開する頃には、託児所や子どもの遊び場にも対応する。生活の変化に合わせて、必要な情報も変わっていきます。

紹介された投稿データにも、その変化が表れていました。スーパーやガソリンスタンドの情報が大きな割合を占める中、炊き出しや物資配布、その後の暮らしに関わる情報へと、話題が広がっていました。

改良は、追加することだけではありません。表示を変えて見づらくなれば、元に戻す。利用者の反応を確かめながら、小さな変更を短い間隔で繰り返しました。

椿原さんは、この進め方を「アジャイル開発」の実践として紹介しました。まず必要な機能を公開し、使われ方を見ながら改善する方法です。イマココナビでは、利用者からの声が、次に作るものを決める手がかりになっていました。

このサービスが止まったら、人命に関わる。急拡大を支えた専門性。

利用の拡大とともに、大きくなったのが運営の負担です。特に、データの読み取りが想定を超える回数に達し、サーバー費用が急増しました。

当初、加悦さんはAIに相談し、無料枠などを使えば費用を抑えられると考えていました。しかし、多数の利用者へ頻繁に情報を届ける仕組みは、大きな負荷を生んでいました。

その頃、エルボーズも行政などの発信をまとめる災害ポータルを運営しており、イマココナビとの情報連携を相談していました。やり取りの中で、加悦さんが一人で運営し、自身も被災しながら対応していることが分かります。全国放送で紹介される予定もあり、さらに多くのアクセスが見込まれていました。

椿原さんは、その状況を見て、支援の必要性を感じたと話しました。

椿原さん「イマココナビは、地域の情報インフラになっていた。このサービスが止まったら、人命に関わる。」

水やガソリンを求めて移動する人にとって、必要なときにサイトが見られないことは、生活や安全に関わります。また、コードや管理機能を確認すると、セキュリティ面でも改善が必要でした。

エルボーズの開発チームは、負荷を抑えるための改修と、安全性を高める対応を進めました。資金面では、クラウドファンディングで支援を募る取り組みにもつながりました。

利用者の困りごとを深く理解し、素早く形にしてきた加悦さん。多くのアクセスを支え、運営上のリスクに対応する開発チーム。それぞれの強みが組み合わさることで、使われ続けるための体制が整っていきました。

競合ではない。目的が同じことで生まれた共創。

別の災害関連サービスを運営していた両者には、外部から「競合ではないのか?」という声もあったといいます。そこで椿原さんが立ち返ったのが、活動の目的でした。

椿原さん「加悦さんも私たちも目的は同じ。地域の人たちのライフライン、人命を守ること」

同じような投稿先が複数あると、情報は分散します。見る人も書く人も、複数の場所を使わなければなりません。すでに多くの人が集まっているイマココナビに、技術や運営の力を持ち寄ることが、目的に沿った選択でした。

支え手は、開発チームだけではありません。検索でサイトが見つけにくくなった際には、スマートフォンのホーム画面へ追加する方法を説明する動画が必要になりました。加悦さんがSNSで呼びかけると、有志が制作を手伝いました。

情報を書く、周囲に知らせる、動画を作る、システムを支える。参加の仕方がいくつもあったことで、さまざまな人が自分のできることを持ち寄りました。

ただし、今回の成果には、利用者の善意や協力に助けられた面もあります。セッションでは、ほかの地域で同じ仕組みを立ち上げたとしても、同じように機能するとは限らないという見方も示されました。費用やセキュリティの課題を含め、次の運営に生かすべき経験でもありました。

次の備えは、仕組みだけではなく、日頃のつながり。

加悦さんは、セッションの時点で、熊本版のサービスを9月末で一区切りとし、次の災害時に素早く立ち上げられるよう準備する考えを語りました。地域や災害の規模に合わせ、必要な情報を扱える仕組みを目指しています。

同時に、公開直後の情報を誰が入れるのか、誰が周囲に知らせるのかという課題も挙がりました。今回は商工会青年部やPTAなどのつながりが初動を支えました。今後に向けては、初期の投稿や周知に協力する人たちとの関係づくり、運営資金の確保も必要になります。

蓄積された投稿データを、防災や研究に役立ててもらいたいという考えも示されました。発災後のどの時期に、何の情報が必要とされたか。その記録を、次の災害への備えに変えていく取り組みです。

日頃のつながりについて、加悦さんはこう話しました。

加悦さん「信頼関係を築いておくっていうことは、いつ使われるか分からないけど、すごい大事」

初めて見るサイトに情報を書き込むことも、そのリンクを周りに知らせることも、最初はためらいがあるかもしれません。日頃からの信頼が、その一歩を支えました。

加悦さんは、普段からAIに触れ、やってみたいことを形にする経験も持ってほしいと呼びかけました。今回の行動の原動力には、自分で作ってみたいという好奇心もあったといいます。

避難所で見つけた困りごとを、まず形にする。必要としている人に届け、声を聞いて改善する。一人では支えきれなくなれば、同じ目的を持つ人と力を合わせる。イマココナビが歩んだ過程には、地域や仕事の課題に向き合うときにも生かせる判断が詰まっていました。

一人が見た情報を、次の誰かの役に立てる。その小さな助け合いが続く場所を、AIと地域の人たちの力が支えていました。

一人の気づきから、地域を変える力へ。

地域の課題を最もよく知るのは、そこで暮らし、働く人たちです。地域課題が複雑化する中、一人ひとりの気づきや小さな行動を、地域の人や企業、団体などがそれぞれの知恵や技術を持ち寄って形にしていく「シビックテック」の重要性はますます高まっています。

イマココナビのような挑戦が熊本から次々と生まれ、つながり、地域を越えて広がっていくことを期待しています。

くまもとDX推進コンソーシアムでは、今後も、このような事例共有の場などをつくってまいります。ご興味をもってくださった方は、ぜい会員登録などいただけたら幸いです。

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