社会福祉法人リデルライトホーム

介護ロボットによる“ノーリフトケア”やLINEの活用で 職員と利用者の“安心”を支えるDX

 熊本市で福祉活動を展開する「社会福祉法人リデルライトホーム」は、ハンナ・リデルおよびエダ・ハンナ・ライト※の創始精神に基づいて活動を続けています。また、明治期には、大隈重信や渋沢栄一らの支援を受けながら、ハンセン病患者の救済に尽力した先駆者たちの志も受け継いでいます。こうした時代を超えた協力と共感を礎に、地域に信頼される社会福祉法人として、多様な介護・支援サービスを提供しています。
 ※ハンナ・リデル、エダ・ハンナ・ライト:イギリス出身の宣教師。熊本でハンセン病患者支援に尽力。

DXに取り組んだきっかけ・課題

 社会福祉法人リデルライトホーム(以下、リデルライトホーム)がDXに取り組み始めた背景には、介護業界全体が直面する構造的な課題がありました。
 まず、人口減少や少子高齢化の進展により、介護現場の人材不足が年々深刻化しています。従来の介護では「人手をかけて丁寧にケアする」ことが当たり前でしたが、現在では「人員を確保すること、増やすこと」が難しくなり、限られた人員でいかに質の高いケアを提供するかが大きな課題となっています。
 また、介護職員の腰痛や体力的負担も大きな問題です。腰痛による離職や長期休職もあり、職員の安全な職場環境の整備が急務となっていました。現場では「腰痛は仕方ない」という意識も根強く残っていましたが、腰痛をはじめとする身体への負担は、業務内で起こる深刻な課題としてとらえ、抜本的な対策が必要だと判断しました。
 さらに、コロナ禍による感染症対策の強化も、DX推進の大きなきっかけとなりました。家族との面会制限や、職員同士の接触機会の最小化など、従来の運営方法では対応しきれない課題が次々と浮上しました。また、ICTやデジタル技術の活用による業務効率化や情報共有の必要性も高まっていました。
 こうした状況を受け、リデルライトホームでは「歴史を大切にしつつ、時代に合わせて柔軟に変化する」という経営方針のもと、現場の生産性向上と利用者サービスの質向上を両立させるため、DXに本格的に取組むことを決定しました。

介護ロボット・ノーリフトケアの導入

 リデルライトホームでは、約7年前から介護現場のDXを本格化させ、特に「ノーリフトケア」の推進に力を入れています。
 「ノーリフトケア」とは、「人の力で利用者を持ち上げたり抱えたりしない介護」を指します。リフトやスライディングボードなどの福祉用具・介護ロボットを活用し、職員の身体的負担を軽減しながら、入居者の安全・安心も実現できるケア手法です。

●抱えていた課題
 従来、入所者のベッドから車椅子等への移乗は、職員2人がかりで抱き上げるのが一般的でした。しかし、この移乗方法は職員の腰や膝、腕の負担につながり、離職や長期休職の要因の一つとなっていました。
 また、入浴時の移乗にも課題を抱えていました。従来、浴室内での介助は通常1名で行いますが、車椅子から浴室内の椅子への移乗の際には、もう1名の職員を呼ぶ必要がありました。移乗を補助する職員は他の業務も兼務しているため、すぐに対応できないことが多く、職員が到着するまで待つ時間が発生していました。この待ち時間が積み重なることで、入浴業務全体の進行が滞り、利用者一人ひとりのペースに合わせた入浴が難しい状況となっていました。

●取組内容
 そこで、熊本県の介護職員勤務環境改善支援事業費補助金を活用し、介護ロボットの電動リフト(以下、リフト)を導入し、1人でも安全に移乗介助ができる体制を整えました。施設内にリフトを計11台設置し、そのうち3台は浴室に固定しています。リフトの導入により、入浴時の移乗も1名の職員で可能となりました。現在では、リフトでの移乗が定着し「基本的に1名で対応する」というルールのもと業務にあたっています。

●リフト導入のメリット
 リフトの導入により、職員の身体的負担が大幅に軽減されました。腰痛やけがのリスクが減少し、現場の働きやすさとサービスの質向上の両立につながっています。
 また、入浴時については、移乗のために職員を待つ必要がなくなったことで、ケアの質を維持したまま、職員の入浴ケアにかかる時間全体を短縮することが可能になりました。その結果、1日に入浴できる人数が8名から10名へと増加し、施設全体として入浴ケアを実施する日数を週5日から週4日に減らすことができました。なお、一人あたりの入浴回数(週2回以上)という規定はこれまで通り維持されており、入浴の質や頻度を損なうことなく、業務の効率化を実現しています。
 これにより、他の業務に充てられる時間が増え、職員の負担軽減とサービスの質向上の両面で効果を上げています。

●導入の際に苦労した点
 リフト導入の際には、現場での定着には多大なる苦労がありました。
 従来の介助方法に慣れていた職員の中には、「リフトを使うと逆に時間がかかるのではないか」「操作が難しそう」といった抵抗感や不安の声がありました。実際、導入初期はリフトの使い方に戸惑う場面も多くあり、リフトを導入したもののあまり利用されない状況にありました。
 そこで、研修やマニュアル整備を重ね、職員が安心してリフトが利用できるような環境を整えました。粘り強い働きかけを継続したことで、職員も徐々にリフト導入のメリットを実感できるようになり、定着につながりました。
 リフトが定着した現在でも、研修を継続しています。最近では、外部から専門知識のある人材を招き、より適切で安全性の高い利用に向けたミーティングも開催しています。

LINEによる家族連絡・情報共有

 入居者の生活の様子やイベント情報を家族に伝える手段として、LINEを導入しました。

●抱えていた課題
 これまで入居者の生活の様子やイベント情報を家族に伝える手段は、手紙や電話が中心でした。約150名の入居者の家族に対し、入居者1人当たり年間約5通の手紙を発送していました。この手紙の作成には文章の作成に加えて、印刷や封入などの作業が伴い、残業で対応せざるを得ないケースもあり、職員にとって大きな負担となっていました。
 また、印刷費や郵送費も年間で数万円発生し、コスト面でも課題がありました。
 さらに、手紙では実際の状況とタイムラグが生じるため、家族が入居者の様子をリアルタイムで把握することが難しく、安心感や信頼の面でも十分とは言えない状況でした。

●取組内容
 こうした課題を解消するため、家族との連絡手段としてLINEを導入しました。職員がスマートフォンやタブレットを使って、入居者の生活の様子や体調を写真や動画とともにリアルタイムで家族に送信できるようにし、従来の手紙に代わる情報共有手段として定着させました。
 また、家族に応じて紙とLINEを併用する柔軟な運用も行い、誰もが安心して情報を受け取れる体制を整えています。

●LINE導入のメリット
 LINEの導入により、手紙の作成や発送にかかっていた作業時間を年間360時間程削減することができた他、印刷費・郵送費の削減にもつながっています。
 また、LINEのグループ機能を活用することで、入居者の家族が複数人いる場合でも、同じ情報を一度に共有できるようになりました。これにより、家族間での情報の行き違いや伝達漏れが防げるだけでなく、職員側も個別対応の手間を減らすことができ、業務の効率化につながっています。
 さらに、LINEの導入により、情報の即時性が格段に向上した他、画像や動画を活用することで、文章だけでは伝わりにくかった生活の雰囲気や表情なども共有できるようになり、情報の「リアルさ」が増しました。これにより、家族からは「日々の様子がすぐ分かり安心できる」といった声が寄せられており、LINEによる情報共有は、職員の負担軽減と家族の安心感向上の両面で効果を発揮しています。

今後の展望

 リデルライトホームでは、日常的に「利用者にとって最良のケアとは何か」をテーマに現場を交えた対話を重ねています。そうした対話の中から、DXに関するアイデアも多く生まれ、残業時間の削減や業務効率化、働きやすい職場環境の整備等につなげてきました。
 その一例として、現在、施設内ではAIの活用を模索しています。既に、議事録やチラシの作成、入居者の体調管理シートの作成等に取組んでおり、事務作業の負担軽減やケア業務に集中できる環境づくりにつながっています。今後は、こうしたAI活用をさらに広げ、現場の声をもとにした業務改善の仕組みを自社内で柔軟に構築できる体制を整えていく予定です。
 また、将来的にはテクノロジーに強い人材の雇用や、社内に研究開発機能を持つ「ラボ」の設置も構想しています。これにより、現場の課題に即したツールや仕組みを自社内で開発・改善できる体制を整え、より持続可能なDXを推進していく考えです。
 さらに、他法人との連携にも積極的に取り組み、ChatGPTの勉強会や自作研修動画の共有などを通じて、地域全体の福祉サービスの質向上にも貢献しています。今後は、外部連携の強化に向け、事務業務の受託なども視野に入れ、介護業界全体の生産性向上に寄与する仕組みづくりを進めていく予定です。
 リデルライトホームでは、DXを単なる業務改善の手段ではなく、「職員が働きやすく、利用者が安心して暮らせる環境をつくるための基盤」と位置づけ、今後も現場に根ざした取り組みを継続していきます。

会社概要

社名 社会福祉法人リデルライトホーム
所在地 〒860-0862 熊本県熊本市中央区黒髪5丁目23-1
代表者 理事長 小笠原 嘉祐
事業所一覧 ▪ 養護老人ホーム(特定施設入居者生活介護) ライトホーム
▪ ユニット型介護老人福祉施設 リデルホーム黒髪
▪ 地域密着型ユニット型介護老人福祉施設 リデルホーム龍田
▪ 地域密着型ユニット型介護老人福祉施設 ノットホーム
▪ 短期入所生活介護 リデルホーム
▪ 一般型通所介護事業所 ユーカリ苑
▪ 認知症対応型通所介護事業所 ユーカリ苑
▪ リデルホーム黒髪 居宅介護支援事業所
▪ リデルホーム龍田 居宅介護支援事業所
▪ リデルホーム浄行寺 居宅介護支援事業所
▪ 小規模多機能型居宅介護事業所 コムーネ黒髪
▪ 認知症対応型共同生活介護 カムさぁ
▪ 認知症対応型通所介護事業所 カムさぁ
▪ 訪問介護事業所 リデルホーム浄行寺
▪ 訪問看護ステーション リデルホーム浄行寺
▪ 住宅型有料老人ホーム くろかみの家
▪ 放課後等デイサービス カムさぁ
▪ 地域包括支援センター ささえりあ子飼

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