熊本県椎茸農業協同組合
次世代へつなぐ原木椎茸栽培のDX化
熊本県椎茸農業協同組合様は、生産者自らが運営する県下唯一の椎茸専門農協として、昭和23年に結成された農業協同組合です。主に、乾椎茸(ほししいたけ)、生椎茸の共同販売や産直販売、組合員への経営・営農指導などの業務を行われています。
今回は、原木椎茸栽培の次世代への継承に向けた、生産の効率化や生産技術のデータ化をはじめとするDXの取組みを紹介します。
DXに取組んだきっかけ
DXに取組んだきっかけは、原木椎茸の栽培を次世代につなげるため、生産体制を見直そうと考えたことです。
原木椎茸の栽培は、生産者の高齢化や人手不足、後継者不足に直面しており、その背景の一つには、すべてがアナログで効率の悪い生産体制にあると考えていました。原木椎茸の栽培は、何十年もの間、生産体制に大きな変化が見られず、昔ながらの生産方法が続いています。また、栽培において、生産者の勘や経験に頼る部分も多く、生産技術を次世代につなげることが難しい状況にあります。
このような状況の中、「DXの取組みで蓄積されたデータを活用し、時間を有効に活用して欲しい。そして、若者にも原木椎茸の栽培に興味を持ってほしい」という組合のDX担当者の想いから、デジタル技術を用いた生産の効率化や生産技術のデータ化の取組みを始めました。
DXの取組み:センサーによる環境データ収集・分析
原木椎茸の栽培において、温度や湿度、照度、含水率といった生産環境が椎茸の生育や質に大きな影響を与えます。
しかし、原木椎茸の生産場所は、山間部の森林に位置しており生産者の自宅から離れている場合が多く、こまめな温度や湿度、照度などの計測が難しいという状況にありました。
このため、気温や湿度などの環境の変化への対応は、生産者の経験や勘に頼る部分が多くありました。しかし、天候の急激な変化や夜間の温度変化など、経験豊富な生産者であっても環境条件の変化を正確に把握することは難しい場合もあります。
その結果、椎茸の発生に最適な条件の分析や、収穫時期の予測ができず、適切な生産管理が難しいという課題が生じていました。
●取組み内容
適切な生産管理に向けて、デジタル技術を用いた、生産場所の環境データ収集と分析の実証実験に取組んでいます。
具体的には、生産場所に温度や湿度、照度、含水率などを計測するセンサーを設置し、継続的に環境データを収集します。これにより、リアルタイムかつ継続的に正確な環境データを得ることが可能となりました。
さらに、センサーで測定した環境データと生産者が把握している収穫量のデータを照らし合わせることで、椎茸の発生に最適な条件の分析や、収穫時期の予測を行っています。これらのデータ分析により、生産者の経験や勘に頼ることなく、科学的根拠に基づいた生産管理の実現につながっています。
●導入の効果
環境データ収集・分析の取組みにより、椎茸の品質向上や生産増加につながっています。
天日で乾燥させる乾椎茸は、雨に濡れると品質が低下してしまいますが、センサーで計測する含水率のデータを活用することで、雨を予想し、雨に濡れないよう事前に対策を講じることが可能となり、乾椎茸の品質向上が実現しています。
また、気象データを活用し、生産に適した植種のタイミングなどを見極めることで、椎茸の発生が促進され、収穫量の増加にもつながっています。
●導入において苦労した点
センサーの利用にあたり苦労した点は、通信環境の整備です。
原木椎茸の生産地は山間地にあることが多く、LTE(携帯電話における通信規格)も届かないエリアが存在していました。そのため、環境データをリアルタイムで収集・送信するための通信環境の整備が必要不可欠でした。
そこで、通信環境整備に向けた電波基地局の設置のため、熊本県の担当者や企業へ今回の取り組みの意義や効果を説明し、協力を仰ぎました。結果として、機器設置には多くの行政から、DXのための技術においては多くの企業から協力を得ることができ、電波基地局の設置が進み、通信環境の課題を克服することができました。
DXの取組み:アプリによる産地偽装の防止と出荷管理
椎茸農業共同組合の業務において、原木椎茸の産地偽装への対策や出荷管理にも課題を感じていました。
まず、原木椎茸の産地偽装への対策についてです。近年、原木椎茸に限らず農産物の産地偽装問題が浮上しており、消費者に対して正確な産地情報を提供することがますます求められています。そのような中、原木椎茸の産地管理については、生産者や流通業者の申告に頼っており、偽造や改ざんのリスクが存在していました。このため、原木椎茸の産地偽装への対策を強化する必要性を感じていました。
次に、出荷管理についてです。熊本県椎茸農業協同組合では、所属する約200名の生産者の生産状況や出荷の情報を収集し、管理しています。約200名の生産者に対し、出荷時期の確認を電話で行っていたことで、担当者は1日に何時間も電話対応に追われることもあり、出荷確認に多大な時間と労力がかかることに課題を感じていました。
●取組み内容
産地偽装への対策や出荷管理の課題解決に向け、生産管理アプリの開発に取組みました。
このアプリでは、生産者が、植菌や収穫などの作業ごとに作業内容を登録することで、自動でGPSデータの取得、データベース化を図る仕組みを整えました。
また、アプリ内で、椎茸農業組合と生産者が連絡を取ることができるようにしたことで、アプリ内で出荷連絡・確認ができるようになりました。
●導入の効果
まず、産地偽証への対策については、GPSデータの活用により、偽証リスクが低減されました。さらに、GPSデータのデータベース化により、農業組合における、産地管理の事務作業時間が約30%短縮されました。
次に、出荷管理については、出荷確認をアプリで行うことで、電話連絡時に比べ約50%の作業時間が削減され、業務効率が向上しています。
今後の展望
今後の展望として、センサーで収集・分析したデータの活用を進める予定です。例えば、原木椎茸の収穫時期の調整です。現在、原木椎茸の栽培では、収穫時期が一定期間に偏っており、収穫量が多い時期は流通価格が下がる傾向があります。そこで、今回の取組みで収集・分析したデータを活用し、収穫時期を調整することで、需要に合わせた供給を実現し、価格の安定につなげたいと考えています。
さらに、DXに取り組むきっかけとなったように、原木椎茸の栽培においては、生産者の高齢化や労働力不足、後継者不足といった課題が深刻です。そのため、今回の取組みを継続、発展させ、さらなる生産の効率化や生産技術のデータ集積を進めることで、原木椎茸栽培技術の次世代への継承を目指します。
加えて、原木椎茸の栽培は山間地で行われるため、森林資源の有効活用や里山保全に寄与する重要な産業です。今後、DXの取り組みを、熊本だけでなく全国の原木椎茸農家と連携しながら進めることで、原木椎茸産業を次世代につなげるだけでなく、全国の森林資源の有効活用や里山保全にも貢献したいと考えています。
会社概要
社名 | 熊本県椎茸農業協同組合 |
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所在地 | 熊本市東区小山4丁目6番113号 |
代表者 | 代表理事組合長 城 憲輔 |
創 業 | 昭和23年3月 |
事業内容 | 受託販売事業 :乾椎茸、生椎茸の共同販売 直販事業 :乾椎茸・生椎茸の産直販売 購買事業 :椎茸種駒外関係資材斡旋 指導事業 :組合員への経営、営農指導 信用事業 :組合員への事業資金の貸付 |