ネッツトヨタ熊本株式会社

車両配送業務を最適化するシステム開発

 ネッツトヨタ熊本株式会社様は、熊本県内に複数の店舗を構える自動車販売会社です。トヨタ自動車の正規ディーラーとして、新車および中古車の販売、車検・整備、保険代理業務など、幅広い自動車関連サービスを展開しています。
 今回は、熊本県が主催する伴走型オープンイノベーション支援プログラム「UXアクセラレーションプログラム2023」への参加をきっかけに取り組む「車両配送業務を最適化するシステム開発」をご紹介します。

抱えていた課題

 新車や中古車、下取り車等の配送センター等と各店舗間の配送において、帰便で空積が多くなるなど、車両配送業務が非効率になっていました。

■ 配送計画作成における作業負担や属人化
 これまでの配送計画作成は、配送が必要な車両情報を電話・FAX・紙伝票などで収集し、スタッフが手書きで行っていました。
 従来の方法では、情報収集に時間がかかる他、スタッフが試行錯誤を繰り返し、計画を作成するため、毎日約60分もの時間を要していました。
 また、配送計画では、積載車両に応じた様々な条件を考慮する必要があり、ベテランスタッフが経験を頼りに作成していました。そのため、複雑な計画作成のノウハウが特定のスタッフに偏ってしまう属人化の課題も抱えていました。

■ 車両配送における課題
 各拠点の車両情報について、配送センターにある新車の情報は収集していましたが、各店舗にある下取り車などの情報は収集していませんでした。
 そのため、配送計画は配送センターから各店舗への行便のみを作成し、各店舗から配送センター等への帰便は配送計画を作成せず、店舗に「車両があれば回収」という非効率な運用でした。また、回収車両の有無は、配送ドライバーが、現地で店舗スタッフに確認しなければ分からない状況でした。そのため、帰便では空積が目立ち、効率的な車両配送に課題を感じていました。
 また、上記のような車両配送における課題は、自社だけでなく、同業他社でも同様の課題があるようでした。さらに、2024年4月から働き方改革関連法に基づいて、トラックドライバーの時間外労働の上限が制限される「物流の2024年問題」もあり、効率的な車両配送は業界における共通課題です。

課題解決に向けた取組み ~車両配送システムの開発~

 熊本県が主催する伴走型オープンイノベーション支援プログラム「UXアクセラレーションプログラム」に参加し、協業企業である株式会社シマント様とともに車両配送システムの開発に取組みました。

■ 車両情報のデジタル化と共有の仕組みづくり
 これまで電話やFAX、紙帳票で収集していた配送センターにある新車情報は、エクセルマクロ機能を用いた自動収集へ変更しました。
 さらに、これまで集めていなかった各店舗にある下取り車などの情報は、各店舗のスタッフが情報を入力したエクセルをクラウドへアップする運用を開始し、車両情報のデジタル化と情報共有の仕組みを整えました。

■ アルゴリズムを用いた計画作成
 車両情報がデジタル化されたことで、配送計画を自動的に作成する車両配送システムの開発が可能となりました。
 システム開発にあたり、ベテランスタッフが作成する車両積載パターンを徹底的に洗い出し、最適なアルゴリズムの開発に役立てました。加えて、実証実験を重ねることで、これまでの配車計画に近い計画作成を実現することが出来ました。

車両配送効率化システムのメリット

■ 配送計画作成時間の短縮
 車両情報共有のデジタル化により、情報収集の時間や手間が削減されました。さらに、システムを用いることで、約10秒で配送計画を作成することができ、これまで約60分を要していた計画作成の時間が大幅に短縮されました。
 また、車両情報を登録するだけで、自動で計画が作成されるため、ノウハウがなくても計画作成業務に取組むことができます。そのため、特定のスタッフにスキルが偏ってしまう属人化の課題解決にもつながりました。

■ 帰便における空積の削減
 車両情報共有のデジタル化で、各店舗の下取り車などの情報が収集できるようになりました。それにより、各店舗から配送センター等への帰便でも、システムを用いて計画を立てることが可能になり、帰便での空積が削減されています。さらに、空積の削減で配送回数が減少し、ドライバーの労働時間の削減にもつながっています。
 また、配送ドライバーは、帰便の計画から回収車両の有無を把握することができます。そのため、店舗スタッフに回収車両の有無を尋ねる必要なくスムーズに車両を積み込むことができ、配送ドライバーの負担軽減や効率的な配送につながっています。

システム開発において大変だったこと

 システム開発において大変だったことは、協業企業の選定です。
 社内にシステム開発の専門知識を持つ人材がいなかったため、「UXアクセラレーションプログラム」において協業企業を募集しました。
 協業企業の選定では、1か月半もの時間をかけて15社の企業と面談を繰り返し、企業を選定しました。
結果として、株式会社シマント様と巡り合うことができ、システム開発においては、スケジュール管理や完成イメージのすり合わせなど様々な課題がありましたが、システム完成までたどり着くことができました。

今後の展望

 今後の展望としては、実証実験を重ねることで、アルゴリズムの精度向上を計り、システムの改善に取り組みます。
 また、このシステムを熊本県内の他社ディーラー、さらには全国のディーラーに利用を働きかけ、他社ディーラーと共同で利用することで、系列を超えた車両の共同配送を目指します。これにより、車両配送を効率化し、ドライバーの労働時間の削減、温室効果ガスの削減を目指したいと考えています。