小国町森林組合
電子入札システムによる業務効率化の取組み
小国町森林組合様は、熊本県小国町を中心とするエリアの森林所有者で構成する協同組合です。林業経営や山林管理のサポートや、市場運営による原木の販売、家具やノベルティ等木製品の受注生産など、業務は多岐にわたります。
今回は、原木の販売を行う原木市の運営における「電子入札アプリ」の導入による業務効率化の取組みをご紹介します。
DXに取組むきっかけ
小国町森林組合がDXに取り組んだきっかけは、モバイルアプリ作成ツールなどを手掛ける企業様との繋がりに始まります。同社と小国町役場が協定を結ばれていたことをきっかけに、小国町森林組合でも小国杉を使ったノベルティの作成などのお付き合いが始まりました。
その後、小国町役場での災害情報システムや選挙速報システムの導入を通じて、小国町森林組合でもDXの可能性を探り、原木市における入札のDXに向け 「電子入札アプリ」の開発に取組みました。
原木入札で抱えていた課題
■紙の入札票による原木入札
小国町森林組合では、原木の販売を入札方式で行う原木市を1年間に25回運営しています。以前の入札では、買付業者(入札側)が紙の入札票に購入希望価格を記入し、森林組合職員(市場側)が入札票を収集・確認し、最も高値をつけた業者を落札者として口頭で伝える方法で運用していました。
原木入札では、毎回約1,000枚の紙の入札票を使用し、入札票の準備や配布・収集、落札者の選定に時間を要していました。なお、落札票以外の約800枚の入札票は廃棄処分となっていました。
原木市終了後には落札情報を管理するために、販売システムへ約200枚の落札票の単価を森林組合職員が手入力しており、入力に時間を要するだけでなく、文字の読み取りやデータ入力の正確性に課題がありました。なお、ミスを防ぐため、複数人での確認を実施するため人員も要していました。
課題解決に向けた取組み ~電子入札アプリの開発~
■「電子入札アプリ」の概要
アプリ開発は、モバイルアプリ作成ツール「Platio」を利用しました。森林組合にはプログラミングやITに詳しい職員がいませんでしたが、「Platio」を提供する企業からのレクチャーを受けながら、職員が開発に取組みました。「Platio」に電子入札のテンプレートが無かったことから開発には約1年を要しましたが、2022年10月より運用を開始しています。
アプリの内容は、まず、買付業者(入札側)がアプリ上で札入れしたい原木を選択し、入札金額を入力します。その後、森林組合職員(市場側)がアプリ上でリアルタイムに入札状況を確認、落札者を決定し、落札結果をアプリ上で買付業者(入札側)へ通知するものです。
また、原木市終了後には、入札情報のブラウザでの確認やCSVデータの取得も可能です。
導入のメリット
電子入札アプリの導入は、森林組合職員(市場側)だけでなく買付業者(入札側)にもメリットがありました。
■森林組合職員(市場側)のメリット
①業務の効率化
電子入札アプリによって、森林組合職員(市場側)は入札情報をリアルタイムで確認できます。なお、ソート機能を利用することで、時間を要していた最高値の確認や落札者の判定が迅速にできるようになりました。
また、原木市終了後には、入札データをCSVデータで出力できることで、データの入力業務の必要が無くなりました。手入力の際に生じていた、手書きの入札票の読み取りやデータ入力におけるミスのリスクがないことで、複数人での確認や訂正の必要も無くなりました。これらの業務効率化により、1回の原木市あたり約2~3時間の作業時間削減につながっています。
②コストの削減
アプリの導入で、紙の入札票を準備する必要が無くなりました。それによって、1回の原木市あたり約1,000枚の入札票のコスト削減になっています。
③需要の分析(データの活用)
アプリ内では、落札価格以外の入札を含む、すべての入札履歴を確認することができます。紙の入札票を利用していた際には、落札者の入札票以外は廃棄していたため、落札価格以外の入札履歴を確認することはできませんでした。
すべての入札履歴のCSVデータを取得することができることで、データを基に需要を分析し、需要の高い原木の傾向(購入頻度の高い原木サイズ、購入頻度の低い原木サイズ等)を見ることが可能となりました。
そして、これらのデータ分析を基に、原木を出品する山主の皆様へ情報提供を行い、需要にあった原木市の運営に役立てています。
■買付業者(入札側)のメリット
紙の入札票を利用していた時には、原木市に参加中の買付業者は、自身で入札価格と数量をメモし、自社の落札状況について概算で把握していました。
電子入札アプリでは、自社が落札した原木の数量と金額をリアルタイムで確認することができます。そのため、金額や数量のメモを取る手間が省け、自社の落札状況の正確な集計・把握が可能になりました。
また、アプリでは場所や時間に関係なく、入札や落札状況の確認をすることができ、原木市当日に会場に来ることのできない場合であっても、遠隔で入札に参加することが可能になりました。加えて、アプリでは出品されている原木の情報(樹種、長さ、材積、認証など)を確認できるため、入札において現物を確認する必要がない場合は、市場に出向く必要が無くなりました。
その他にも、買付業者の方から「2つの入札番号がある場合、以前は入札票が2枚必要であったが、アプリを利用することでスマートフォン1つで解決できるのが良かった」などアプリの利便性を評価する声が聞かれています。
導入における課題
電子入札アプリの導入にあたり課題となったことは、高齢の方も多い買付業者(入札側)の皆さんのデジタル技術に対する抵抗や不安に対応することでした。
アプリ導入1か月前に実施した「電子入札アプリの操作説明会」では、買付業者(入札側)の皆さんからは、デジタル技術に対する抵抗や不安から、アプリ導入に対し後ろ向きな声がほとんどでした。
そのため、説明会ではアプリの仕様や買付業者(入札側)のメリットを丁寧に説明するとともに、参加出来なかった業者に個別説明をしました。
また、アプリ開発時から、買付業者(入札側)の皆さんの負担を増やさないよう心がけました。入札金額の記入のみであった従来の紙の入札票に近づけるため、入力画面は画面のスライドや入力部分を減らし、出来るだけ簡易なアプリ作成に取組みました。加えて、実際のアプリの導入も、原木市のうち一部の入札に絞り限定的なスタートとし、買付業者(入札側)の皆さんのデジタル技術に対する抵抗感の低減や不安の払拭に取組みました。
結果として、一部の入札での実施を予定していた導入初日でも、すべての入札をアプリで実施することができ、今では、買付業者(入札側)のメリットもご理解いただきアプリでの運用に対し前向きな声が聞かれています。
今後の展望
今後も、モバイルアプリ作成ツール「Platio」を利用して、入札以外の業務でもDXに取組む予定です。
原木市の運営においては、入荷管理についてもアプリの利用を検討しています。現在は、紙の入荷伝票を利用しているため、入札のようにアプリを利用することで、業務の効率化やコスト・人材の削減を目指しています。
原木市での業務以外でも、森林組合の一部の部署でアルコールチェックの報告にアプリの活用を始めている他、アプリを利用できる業務を模索しています。
アプリ以外でもDXに取組んでいます。
小国町森林組合では、年に2回の組合だよりや市況、決算書の資料を、組合員様に向け、郵送しています。
今後は、経費削減や郵送による二酸化炭素削減の観点から、これらの資料を郵送からメール配信へ移行する予定です。
なお、これまで、インスタグラムやFacebookなどを利用し情報を発信していますが、2024年12月よりLINE公式アカウントも立ち上げました。今後は、これらのSNSを活用しさらにタイムリーな情報発信を実施する予定です。
団体概要
社名 | 小国町森林組合 |
---|---|
所在地 | 〒869-2501 熊本県阿蘇郡小国町宮原1802-1 |
代表者 | 代表理事組合長 北里 栄敏 |
主な事業内容 | ・山林の管理や施業受託による木材生産と森林の多面的機能発揮の促進 ・地籍業務による山林境界の明確化 ・共販市場運営による原木の販売 ・建材製品の受注販売 ・家具やノベルティ等木製品の受注生産・OEM ・アロマオイル製造販売 ・植栽用苗木の栽培生産 |
設立 | 昭和26年12月27日 |