株式会社なかせ農園
デジタル技術を活用したサツマイモ品質向上の取組み
株式会社なかせ農園様は、菊池郡大津町においてサツマイモの栽培を、代表取締役の中瀬靖幸氏のご両親の代から30年以上続けられています。熊本地震で被災したことをきっかけに法人化し、「家業から事業へ」を念頭に、これまで培ってきた経験や勘に基づく栽培の暗黙知の「見える化(数値化、クラウド化)」と、熟練の農業技術の「自動化」、「省力・軽労化」を進めてこられました。また、環境制御された専用熟成庫によって高糖度にした熟成芋を「蔵出しベニーモ」としてブランド化し、販売しています。
熊本県内の中小企業のDXに関する挑戦的な取組みや新しい成果を上げている取組みを表彰する「くまもとDXアワード2023」において、最高賞の「くまもとDXアワード大賞」を受賞されました。
今回は、最新技術を導入したサツマイモの熟成管理と畑の土壌分析の取組みをご紹介します。
抱えていた課題、導入のきっかけ
■ 熟成施設の温度管理
なかせ農園の「熟成イモ」は、甘さを引き出すため収穫後一定期間熟成させる必要があります。この熟成過程では、サツマイモの低温障害や発芽を防ぐため、施設内を一定の温度に保つことが重要です。
しかしながら、伝統的な熟成施設においては自動での温湿度制御装置がなくアナログな環境管理となります、そのため昼夜を通した継続的な温度計測が難しく、勘と経験に頼った温度管理を行っていました。そのため、施設内を一定の温度に保つことが難しく、全体の約2~3割のサツマイモが低温障害や発芽を引き起こし、廃棄処分となっていました。
また、継続的な温度測定に向け、デジタル技術の導入を検討しましたが、伝統的な熟成施設は山影にあることが多く、電気やネット設備の整備が導入の壁となっていました。
■ 畑ごとの生育や品質のばらつき
なかせ農園では、約70か所の畑でサツマイモを栽培しています。畑により条件や環境が異なることから、各畑の土壌環境に合わせた肥料設計が必要です。
しかしながら、勘や経験に頼った肥料設計を実施していたことで、栽培に適切な環境を実現できない場合もありました。そのため、全体の約1割の畑で、サツマイモの生育や品質の悪い状況が発生し、畑により生育や品質に差が生じていました。
また、データに基づく環境分析ができていないことで、生育や品質の良し悪しの原因が分からないという課題もありました。
課題解決に向けた取組み ~「テンプホーク」による温度管理~
■ 取組み内容
熟成施設において、適切な温度管理を実現するために、温度を計測・管理する「テンプホーク」を導入しました。
「テンプホーク」とは、高性能センサーを用いて温度と湿度を計測し、インターネットを介してリアルタイムで確認できるシステムです。なお、計測データはデジタルで蓄積され、データの管理や長期データのグラフ閲覧などが可能です。
高性能センサーは充電式であり、1度の充電で約半年間利用可能なため、電気やネット設備の必要なく導入することができます。
なかせ農園では、熟成施設に各一台ずつ計10台のテンプホークを導入し、計測データに基づき環境制御型の熟成施設では設定値の変更、環境制御装置の無い伝統的な熟成施設では換気環境を調整することで、温度調整を行っています。
■ 導入の効果
「テンプホーク」の導入で昼夜を通した継続的な温度計測が可能となりました。データに基づく適切な温度調整ができ、施設内を一定の温度に保つことが可能となっています。導入の結果、低温障害や発芽の発生が大幅に減少し、廃棄処分の減少、品質の向上につながりました。
課題解決に向けた取組み ~「ソイルマン」による土壌分析~
■ 取組み内容
畑の環境を分析するため、「ソイルマン」による土壌分析を導入しました。
土壌分析とは、畑の栄養素や土壌の物理環境などを測定し、作物の栄養状態や土壌の健康を評価する取組みです。収穫量と合わせて分析することで、適切な肥料設計や、作物の病害や生育不良に対する要因特定に役立てることができます。
「ソイルマン」は畑から採取したサンプルを分析メーカーへ送付し、土壌分析を実施するサービスです。なお、分析結果はオンライン上で確認・管理でき、畑ごとの経年比較や畑同士での比較が可能です。
なかせ農園では、「ソイルマン」を利用し、年に1回約70か所ある全ての畑からサンプル採取し分析を行っています。
土壌分析のデータを確認し、収穫量が多い畑や品質の良い畑のデータを参考に、畑に合わせた肥料設計に取組んでいます。
■ 導入の効果
「ソイルマン」の導入により畑の環境が可視化されたことで、畑ごとに生育や品質の良し悪しの要因が明らかになりました。データに基づいた適切な肥料設計により、畑ごとにばらつきのあった生育や品質が平準化されました。
また、畑ごとに必要な栄養素が明確になったことで、適切な栄養素を適切な量補給する無駄のない肥料設計が実現しました。
今後の展望
デジタル技術の活用は、働き方や生産性、品質の向上に大きな可能性を秘めています。特に、既存のサービスを組み合わせることで、新たなシステムを自社で開発する必要がなく、小規模な企業でもDXに取組むことが可能です。実際に、なかせ農園では、既存のサービスを活用したDX推進により、従業員の負担を軽減しつつ売上を拡大することができています。
しかし、DX推進には課題もあります。デジタル技術導入の際には、「デジタル技術」と「従来の経験とノウハウ」との間で衝突があり、長年の経験を持つ家族からの理解を得るためのコミュニケーションが課題となりました。また、デジタル技術導入の効果を検証し実感するには時間がかかります。特に、サツマイモの栽培は年に一度しか行われないため、効果を実感するまでに約3年を要しました。
その経験を活かして、社内コミュニケーションの円滑化の取組みを進めています。加えて、デジタル技術導入から約6年が経過し効果を実感できたことで、今では、衝突していた家族からも理解を得られています。
今後の展望として、福祉事業を拡大させるためにもDXを推進したいと考えています。なかせ農園では、現在も多くの障がいを持つ方々が働いており、これまで導入したデジタル技術が働きやすい環境作りに役立っています。具体的には、サツマイモ熟成施設の扉を開閉する際に、テンプホークのデータを提示しながら指示を出すことで、従業員は納得感を持って業務にあたってくれています。
デジタル技術は、障がいを持つ方々を含め、多様な人材を支援するツールとなり得ます。そのため、今後のDX推進では、誰もが使いやすいツールの設計や仕組みつくりも重要と感じています。さらに、デジタル技術活用による働きやすい職場つくりを進めることで、障がい者の就労や自立を支援するだけでなく、人手不足を解消し、持続可能な農業を実現したいと考えています。
会社概要
社名 | 株式会社なかせ農園 |
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所在地 | 〒869-1222 熊本県菊池郡大津町岩坂578 |
代表者 | 代表取締役 中瀬 靖幸 |
設立 | 2016年7月1日 |